なぜサムスン電子は48層で大量生産に踏み切ったのか
表1に示されている通り、2016年3月時点で、サムスン電子は48層の3次元NANDを大量生産しており、その割合は40.8%を占める。東芝関係者の言う通りなら、サムスン電子は大赤字になっているはずだが、実際はそうではないようだ。
2016年3月当時、サムスン電子は、2次元NANDは韓国工場で製造し、3次元NANDは中国の西安工場で量産していた。中国の半導体事情に詳しい識者によれば、「中国が招致した西安工場では、土地代がタダ、電気や水などのインフラ代がタダ、法人税が向こう10年間免除、加えて、オペレーターとして現地中国人を2千人規模で採用しているため各種補助金が出る。そのため税引前利益では(東芝関係者が言うように)赤字かもしれないが、税引後利益では黒字になっている」というのである。
つまり、サムスン電子は、中国の立地上の優位性を利用して、競合他社が踏み切れなかった48層の3次元NANDをいち早く大量生産できたということである。そして、サムスン電子は東芝を含む競合他社を大きく引き離すとともに、3次元NANDの製造ノウハウをどこよりも速く手に入れることにもなった。
歩留り向上とともに技術も向上
半導体には、歩留りというパラメータがある。例えば、12インチウエハに1000個の3次元NANDをつくる場合、そのうち良品が800個取れたら、歩留り80%ということになる。通常、半導体メモリでは、80~90%以上の歩留りにならないと、利益が出ない。
ところが、開発センターで500~1000工程程になるプロセスフローが確定して、これが量産工場に移管された際、歩留りはゼロに近い。歩留りゼロから少しずつウエハ投入量を増やしていき、500~1000工程のプロセス一つ一つを最適化していくことによって、歩留りは向上していく。
その過程で、工程フローをつくりかえることもあるし、場合によっては開発センターに差し戻されて、設計からやり直す場合もある。このような一連の改善作業を通じて、半導体メーカーは、その製品の勘所を学習し、ノウハウを蓄積していく。
つまり、ウエハを流す→改善する→もっとウエハを流す→もっと改善する、というサイクルを繰り返すことにより、歩留りが80~90%に向上し、それに伴って、半導体メーカーはノウハウや技術を蓄積していくのである。
48層の3次元NANDの大量生産にいち早く踏み切ったサムスン電子は、最先端品を何処よりも早く市場に投入したことによる利益を得るとともに、3次元NANDの製造ノウハウや技術も蓄積したわけである。