2024年4月25日(木)

古希バックパッカー海外放浪記

2017年4月30日

国境の寂れた田舎町カレクシコ

カレクシコの街なかの国境の鉄柵。植木屋さんのハシゴがあれば簡単に越えられそう

 5月14日(土)。サンディエゴの東120マイルにある砂漠の中の人口4万人の町カレクシコ(Calexico)は恐らく典型的なメキシコ国境に接するアメリカの田舎町であろう。観光ルートから外れており周辺に名所旧跡はない。

 国境の検問所の周囲に入国審査、税関、国境警備など関係当局の事務所、警察署、郵便局などのオフィスと土産物屋、両替屋、スーパーなどがこじんまりと並んでいる。メキシコ側も同じくらいの規模の小さな街並みである。

 両替屋のレートはエルパソに比較してドルからペソへの交換レートがかなり良い。メキシコへ行く米国人の観光客がほとんどいない、すなわちドルの売り手がほとんどいないからであろう。逆に朝9時前であるが既に米国の入国管理事務所には行列が出来ていてメキシコ人が続々と入国してくる。国境警備隊(Boarder Patrol)の麻薬犬が何頭もひっきりなしに動き回っている。

 米国に働きに来る連中が大半のようであり彼らは長距離バス乗場に真っすぐ向かう。一部は日帰りでカレクシコに買物に来た人達のようで市内循環バスに乗る。バスはウォルマート、郵便局、ショッピングセンターなどを循環している。

出稼ぎ労働者が持ち帰るお土産は安価なコピー商品の中国雑貨

カレクシコの街はずれまで来ると国境沿いの自動車道路は封鎖されていた

 暇つぶしにカレクシコの土産物屋が並んでいる通りを散策する。商品は大半が子供用品でありディズニーキャラクターをあしらった文房具類、子供用ハンドバッグ、リュックサック、靴、三輪車、自転車などである。そのほかに女性用の衣類、バッグ、靴も並んでいるが中国製がメインだ。

 お値段もメキシコ人が家族に買って帰れる水準である。孫の土産にソーラー電池で動くマリアッチの三人トリオの人形を購入。人形は一つ99セントでありトリオで2ドル97セントだった。

国境の柵はハシゴで簡単に越えられそうだが

 カレクシコの街並みは数百メートルで途絶えて砂漠地帯となるが検問所から数キロメートルの米国側の国境沿いには5メートル幅くらいの砂地帯が設けられていて立ち入り禁止だ。野球場のグランドのように平らに整地されている。メキシコ人が柵を超えて侵入してくれば足跡が残るという仕組みのようだ。

 この砂地帯の外側に道路が走っており国境警備隊のパトロールカーが巡回している。トランプ氏が問題にしている国境の柵は鋼鉄の網を鉄の支柱で支えている高さ4メートルもないものだ。これが見渡す限り砂漠の地平線まで延びている。パトカーがいなければ木のハシゴでもあれば簡単に越えられる。

 カレクシコの反対側のメキシコの町では特に警備している様子は見られず、国境の鉄柵の近くにもあちこちに大きな木が茂っておりメキシコ側で木登りして枝からアメリカ側に飛び降りれば簡単に越境できる。

現代の万里の長城は“無用の長物”か

ティア・フアナの食堂。英語のメニューもなく外人観光客への配慮がまったく感じられない

 高い壁をメキシコ国境沿いに建設するのは万里の長城と発想的には同じであろう。万里の長城は秦の始皇帝により防衛線として整備され、その後も北方からの異民族の侵入を防ぐために歴代王朝により増強され地球上で最長の人口構造物になった。

 しかし中国の歴史を振り返ると肝心な場面では余り役に立っていない。中国では秦王朝のあと何度も北方異民族の王朝が成立していることから万里の長城は物理的に異民族の侵入を防げなかったことは自明だ。

味はともかくボリューム満点なメキシコ料理

 トランプ大統領はメキシコで生産した自動車をアメリカに輸入するなら高額関税を課するとしてメキシコでの製造業の雇用拡大に断固として反対している。メキシコで雇用機会が減少すれば益々不法移民がアメリカ市場を目指すようになる。物理的に長城を越えられなければ他の国を迂回するなり観光客を装うなりして不法滞在者は国境を越えるであろう。アメリカ・メキシコ両国の経済成長とアメリカの財政負担を考慮すれば現代の万里の長城には合理性がないと思うのだが。

⇒(第8回に続く)

  
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