満開の桜を見に、大勢の花見客が集まっています。3人のおじさんは、立派なお弁当箱を持参して、お酒なんか飲んじゃって……そう、ビニールシートではなく、あでやかな緋毛氈(ひもうせん)を広げ、さらにその下にゴザらしきものまで敷くという用意周到ぶり(⑤)。まだ寒い頃ですから、さすがです。正面を向いているそこな坊主頭のおじさん、剃髪から推察するに、ご職業はお医者さんでしょうか。
扇子で陽気に囃(はや)しながら歩く2人のお武家さんは刀に柄袋をかけています(⑥)。ぶら下げているのはお弁当? 後ろにおいでの小僧さんは、版元・西村屋永寿堂さんの「山に三つ巴」マークの風呂敷が目立っていますよ。その右の素敵な縞(しま)の着物に前帯姿の美しいお姉さん、煙草入れを懐からちょいと取り出してキセルを一服とは粋ですね。
仲のいい家族でしょうか。子供が2人、夫婦に負われてやっと御殿山までたどり着いたというのに、眠ってしまっています(⑦)……。
それにしてもお江戸の人々の、なんて楽しげな賑わいぶりでしょう。今年のお花見は、お弁当抱えてどこに参りましょ?
【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。
【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。
米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。
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