お江戸の木造りの小さな橋が見えます。雪が降っているようです。左に掲げられた看板は、何を意味するのでしょうか?
冬のお江戸は焼き芋の香り
「名所江戸百景 びくにはし雪中(せっちゅう)」(①)。この絵でまず目に飛び込んでくるのは、左に掲げられた「山くじら」(②)の大きな看板です。山くじらは、猪(いのしし)の肉、別の名は牡丹(ぼたん)肉。この店は牡丹鍋で人気の「尾張屋」さんといわれています。当時、表向きは食べられていなかった獣肉ですが、実は「薬喰(くすりぐ)い」と称し、滋養をつけるという名目で肉を食べる人々もいました。他に鹿肉(紅葉肉)、馬肉(桜肉)も食べられていたとか。その尾張屋さんはこの浮世絵のスポンサーだったのでしょうか。安政5年(1858)に描かれた歌川広重さん(⑧)のヒット・シリーズの中の一点です。
さて、タイトルのびくに(比丘尼)橋は、鍛冶(かじ)橋のすぐ近くにあった小さな橋。今でいうなら東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅近くの高速道路が走っている周辺に位置し、JRの線路を挟んだ向かいには東京国際フォーラムがあります。この雪の中を行くのは「おでん燗酒屋さん」でしょうか。「おでん燗酒~、甘いと辛い~」という呼び声のおじさんが、今しも渡ろうとしているのがびくに橋です(③)。
橋を渡った右手には江戸城の堀の石垣(④)が見えます。さらに遠くに見える火の見櫓(やぐら)辺り(⑤)は南町奉行所でしょうか。ちょうど数寄屋橋御門の方向、今なら、有楽町駅の中央口の前付近、数寄屋橋交差点を見ていることになります。