そして右手の「○やき 十三里」(⑥)の看板が出ているところ、ここは橋番さん(橋のお世話をする番人)の番屋です。橋番さんはアルバイトとして、わらじや小物などの日常雑貨を売りましたが、寒い頃は焼き芋が名物でした。十三里とはさつま芋のこと。「九里(栗)より(四里)うまい十三里」、お江戸まで13里(約50キロ)あった川越から川船で運ばれてきたさつま芋を丸焼きや輪切りにして焼いて売っていたのです。よしずのかげにある竹籠には山積みのさつま芋が、奥では、釜でさつま芋を焼いているのが見えます。冬のお江戸は「焼き芋の香りの町」だったといわれています。まるで現代のコンビニのおでんのように、冬場の人気商品でした。
この1枚を眺めているだけでも百万都市・お江戸のバラエティーに富んだ食文化が伝わってきます。雪の町一帯に、香ばしい焼き芋の香りが漂ってくるようです。
ところで、「クローン文化財※」をご存じでしょうか。今では見ることができなくなった、過去の文化財や芸術を再現・復元する試みです。その活動の一環として、江戸の人が見たであろう、触ったであろう当時のままに浮世絵が復元されました。さらにはこの「○やき」の看板下の小犬たち(⑦)が雪の中を飛び跳ねる動画さえも創作できるようになったのです。機会があれば、ぜひご覧ください。
※東京藝術大学教授で日本画家の宮廻正明氏らが進めるプロジェクト。デジタルとアナログを融合した最新技術により、芸術作品や文化財の質感や凹凸までもを再現。破壊されたバーミヤン東大仏の天井壁画を復元した
【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。
【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。
米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。