2024年4月19日(金)

前向きに読み解く経済の裏側

2017年5月29日

「大卒は生涯所得が高いから、自分で学費を払わせるべき」か?

 大卒は高卒より生涯所得が数千万円高いという統計があるそうです。そうだとして、「大学生に奨学金を貸与し、将来の所得で返済させれば良い。卒業時に免除する必要はない」という議論については、いかがでしょうか?

 まず、「平均はそうでも、自分はリストラされてしまうかもしれないし、勤務先が倒産してしまうかもしれない。奨学金を返済する自信がない」と考えて大学進学を諦めてしまう人が多いでしょう。そうした可能性は、「センター試験が平均点以上である学生が5年以内に卒業できない可能性」よりも遥かに高いので、進学意欲を阻害してしまいかねないのです。

 「大学卒が高校卒よりも生涯所得が高いのは、それだけ日本経済に貢献しているからだ。それなら皆を大学に入学させれば日本経済は発展するだろうから、やはり学費は税金で負担すべき」という考え方はどうでしょう? これには問題が二つあります。

 一つは、「大学卒が日本経済に貢献するから生涯所得が高い」のか、「大学卒の肩書きがあると就職活動で有利だから生涯所得の高い仕事に就ける」のか、です。大学教員である筆者としては前者であると信じたいですが、後者も結構大きいかもしれません。「大学に進学したということ自体、真面目に勉強しようという意欲の表れだ」と考える採用担当者もいるでしょうし、「大学卒と高校卒で、会社への貢献度合いは少ししか違わないけれど、採用担当者が片方を選んだ理由を上司に説明しやすいから大卒を採用した」、という大企業も少なくないでしょう(笑)。

 今ひとつは、皆が大学へ進学するようになれば、現在は高卒が従事している比較的単純な労働に大卒が従事するようになるでしょう。そうした仕事は、高卒でも大卒でも成果にそれほど違いはないでしょうから、「新しく増えた大卒が日本経済に貢献する幅」が「現在の大学卒が日本経済に貢献している幅」よりも遥かに小さくなる可能性も高そうです。チョッと難しい話になりますが、経済学で言う「限界」と「平均」の違いという議論ですね。

  
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