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世界の記述

2017年6月27日

 ブラジルと言えば肉の国。鉄の串に刺した肉を炭火でじっくり焼く名物料理、シュラスコが思い浮かぶ。そんな肉好きの国でも世界最大の牛肉輸出を誇る食肉加工会社、JBSで社長と役員をつとめる兄弟が、検察に過去の贈賄を一気に暴露し、昨年8月に就任したばかりの現職、テメル大統領に嫌疑が及んだ。

 JBSという社名。1950年代に首都ブラジリアで肉料理店を始めた父親の名が由来で、当初は首都の成長とともに実直にビジネスを広げてきた。だが、息子2人が社主、取締役として活躍する過去10年の成長ぶりは異常で、ライバル企業のみならず他分野の会社の買収を続け、倍々ゲームのように収益を増やしてきた。グループの総収益は2006年、米ドル換算で18億ドル相当だったが、これが16年には460億ドル相当に激増した。

 買収のための資金はブラジル開発銀行など政府系機関からの融資で賄ってきた。その裏で兄弟は、融資取り付けのためせっせと、総勢1829人もの政治家やその候補たちに不正の政治献金をしてきた。

(写真・ JuFagundes/iStock/Thinkstock)
 

 ところが、JBSは昨年来、開発銀行の不正融資事件の捜査対象にされたのを機に、自らの企業を救うため司法取引に応じ、過去の情報を検察に渡し始めた。

 いざとなったら告発しようと準備していたのか、兄弟は書類だけでなく、政治家への献金場面を映像で、電話のやりとりを録音で大事に残していた。司法当局に渡った情報の中には、テメル大統領の汚職関与を匂わせる録音があり、その内容をオ・グロボ紙が5月17日にスクープし、政権危機報道が一気に加熱した。

 録音は、国営石油会社ペトロブラスの疑獄事件で服役中の政治家に口封じの献金を続けるべきかどうかを、食肉加工会社の社主に聞かれた大統領が「続けないとだめだ」と答えている場面だ。他にも社主は、テメル氏に求められ、多額の贈賄をしてきたと証言している。

 検察は現在、収賄、組織犯罪企図などの容疑でテメル大統領を捜査しているが、大統領の顧問弁護士は「録音は全て偽造だ」と疑惑を全面否定している。仮に訴追されたとしても、大統領には免責特権があるため、下院の3分の2が支持しない限り、裁判への出廷は免れる。

 昨年弾劾されたルセフ前大統領の場合、汚職疑惑が発覚した直後から大規模な反政府デモが全土に広がり、与党議員の離反も相次いだ。しかし、テメル氏については、国民も政界もまださほどの盛り上がりを見せていない。

 良くとらえれば、テメル氏なくして、どん底の経済から脱する道はないと、中間層を中心に国民がまだ彼の緊縮策や労働市場改革に期待をかけている、という面もある。悪くとらえれば、どの道、政治家は誰しもがやっていることだと、国全体が汚職にすっかり慣れてしまったとも言える。あるいはルセフ前大統領は女性だったため、より清新さを求められ、その分、風当たりが強かったのかもしれない。
  
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