2024年12月19日(木)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2017年7月13日

香港に漂う「言葉狩り」への不安

 映画『十年』はオムニバス形式の作品で、『エキストラ』『焼身自殺者』『冬の蝉』『方言』『地元産の卵』という5作からなる。それぞれ異なったストーリーなのだが、壊されていく香港の将来に対する「恐怖」が5作品全体を貫いており、次々と悪夢を見させられている気分にさせられる。

 このなかで『地元産の卵』という作品は特に今の香港を象徴する内容となっている。原題は『本地蛋』。「本地」という文字が、2025年の香港では禁句になっており、その禁句リストをもった少年団が巡回し、香港市民に「本地」という言葉を使わないように取り締まっている。

『十年』(「地元産の卵」より)
(C)Photographed by Andy Wong, provided by Ten Years Studio Limited

 「地元産の卵」と書かれた卵を売っている雑貨店に少年団が押しかけ、香港で唯一卵を生産していた養鶏業者は当局のいやがらせで生産の中止を決定する。少年団は文化大革命の少年少女の紅衛兵をモチーフにしていることは明らかだ。

 「本地」=地元というありきたりの言葉を使っていけないという設定は、日本人にはわかりにくいかもしれない。近年、香港で愛国教育によって「中国人」を強調する動きが強まっているなかで、香港の独自性をアピールする「本土」や「本地」などの言葉がいつか規制されて語れなくなるのではないか、という不安を伝えようとする内容なのだ。

 実際、「香港独立」を意味する「港独」という言葉を語ろうものならば、罪に問われかねない空気が最近の香港では強まっている。思想の自由という観点からすれば、独立を語ることには何の法的な問題もないはずだが、いまの香港にはそれを許さない重苦しい空気が漂う。そんな「言葉狩り」の状況に置かれた未来の香港を予見するように作られた映画が『十年』であり、『地元産の卵』なのである。


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