サウジが外交、内政の両面で、かつては考えられなかったような積極的な動きを示していることは確かです。
論説は、その背景には、サウジがもはや安全保障で以前のように米国に頼れなくなったこと、シェール革命により石油の重要性が以前より薄れたことから来る恐れがあると指摘しています。正しい指摘でしょう。
サウジにとってのショックは、米国が核をめぐってイランと交渉し、合意に達したことです。イランの核開発をめぐるイランと米国の関係には長い歴史があります。米国は何とかしてイランの核武装を阻止することを望んでいました。しかし、米国にはイランとの交渉を始めるに際して、サウジとの関係を軽視する意図は全くありませんでした。米国は、サウジにその旨を何回も説明しています。それにもかかわらず、米国がイランと交渉したことで、サウジが米国に裏切られたと考えたのは明らかです。
米国がサウジとの関係を見直した直接のきっかけはシェール革命です。サウジが米国にとって戦略的に重要であったのは、サウジが石油の主要供給国であったからです。そのため米国はサウジの人権問題にも目をつぶってきたのです。シェール革命の結果、米国のサウジの石油に対する依存が急減し、米国にとってのサウジの戦略的重要性が変質しました。
サウジ・米関係の変化の直接的な要因は、サウジから見ればイランの核交渉・合意であり、米国から見ればシェール革命であったと言えます。
サウジの新しい積極外交と野心的な経済政策がうまくいくかどうかは分かりません。
カタール孤立策が期待通りの成果を上げる保証はありません。イエメン介入は泥沼化の様相を呈しています。積極外交の問題点は、頼りになる同盟国がないことです。本来は湾岸協力機構(GCC)がサウジ外交のよりどころでしたが、カタール孤立策でGCCは分裂してしまいました。
経済政策については、石油に頼らない経済構造の構築は容易ではなく、以前から試みられてきましたが、うまくいっていません。また、生活必需物資の値上げや、各種税の導入は、これまでのサウド王家と国民との間の社会契約に背くものです。ムハンマド皇太子(6月21日に副皇太子から昇格)を先頭とする新政策推進派は数多くの挑戦を乗り越えていかなければなりません。
米国とサウジとの関係が変質したとはいえ、米国にとってのサウジの重要性は依然として大きいものがあります。サウジは日本にとっても最大の石油供給国であるなど、重要なパートナーです。日米はサウジの置かれている状況に理解を示し、サウジが中東における安定勢力となるよう、協力すべきでしょう。
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