米ハドソン研究所のミード研究員が、6月20日付けウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載の論説において、最近サウジアラビアの外交、内政が大きく変わった原因は、米国との関係と石油事情の変化に対する恐れである、と分析しています。論説の要旨は以下の通りです。
サウジはこれまで、外交については世界で最も慎重な国の一つであったが、もはやそうではない。ここ3週間だけでも、サウジはカタールに対する攻勢の主導権を取り、イスラエルとの新しい結びつきを示唆し、パキスタンを叱り、イランとの対決姿勢を強めた。同時にイエメンでの空爆を続けている。
一方、内政でもダイナミックな政策が導入されている。2030計画は、サウジの改革のこれまで最も広範で野心的な計画である。
これまで世界で最も注意深く、動きが緩慢な国に基本的な変革が起こっているが、その背景にあるのは恐れである。
サウジはこれまで、強く自信に満ちた米国に守られて安心できたが、それほど安心はできなくなった。
「不安の時代」はオバマ政権で始まった。オバマが核交渉でイランに手を差し伸べたことで、サウジは孤立し、裏切られたと感じた。イランの力がイラク、シリア、レバノンに広がるにつれ、サウジは、米国はもはやサウジの安全を、米国の核心的利益とは考えないと結論付けた。
トランプ政権は「“イランへの傾斜”は終わった」としてサウジを安心させようとしているが、サウジの不安の根は深い。サウジにとっては、ブッシュ―オバマ―トランプという米国の外交政策の不規則な変動は、トランプの後に誰が来るだろうかとの将来への疑問を抱かせる。
米国の政治がより予見しがたく、極端になるにつれ、米国との安定した同盟を安全保障政策の基礎においてきた国々は、選択を再評価せざるを得ない。
そして石油である。かつて石油については、サウジと米国の利害は一致していた。
サウジは世界の石油市場で「スウィング・プロデューサー(注:油価が上がれば増産、下がれば減産)」の役割を果たし、米国はそれを多としてきた。
シェール革命がこの均衡を変えた。サウジと米国は石油市場で、もはや同盟国ではない。サウジの観点からすると、さらに悪いことに、石油市場の長期的ダイナミクスが変わりつつあるように見える。これまでの生産の頭打ちに代わって需要の頭打ちが話されるようになった。エネルギーの効率的使用と代替エネルギーの台頭で、石油に対する長期的需要の伸びが逓減する。それと同時にサウジの人口は急増しており、石油での利益が減れば国民を満足させられなくなる。
以上から考えると、湾岸の混乱は続くだろう。トランプ政権が平静さを取り戻そうとすれば、サウジの経済的、そして安全保障上の問題を包括的に考え、第二次世界大戦以来中東の安定の柱であったサウジと米国の同盟をいかに更新するかにつき、創造的に考える必要がある。
出典:Walter Russell Mead,‘Fear Is What Changed Saudi Arabia’(Wall Street Journal, June 19, 2017)
https://www.wsj.com/articles/fear-is-what-changed-saudi-arabia-1497912337