経営再建中の東芝は10日、2017年3月期決算の有価証券報告書を法定期限から1カ月以上遅れてやっと関東財務局に提出した。東芝本社で記者会見した綱川智社長は、5529億円にのぼる債務超過を解消して上場を維持するため半導体子会社の年度内売却に「容易ではないが最善を尽くす」と決意を示した。3月期決算にPwCあらた監査法人が「限定付き適正意見」を表明し、一定のお墨付きを得たことで、東京証券取引所の上場廃止の心配は一時的にはクリアした。
「限定付き適正意見」について同席した平田政善最高財務責任者(CFO)は「米国での原発工事代金の損失見積もりに関して監査法人と見解の相違はあったが、その他は『適正』とされている」と指摘した。
だが、難航している半導体子会社の売却が18年3月期末までにできなければ、東芝は2期連続での債務超過になり、上場廃止となる。決算発表は乗り切ったが、半導体子会社売却の難問解決が控えている。
決められない売却先
綱川社長は売却の優先交渉先については「日米韓連合」以外に、米ウエスタン・デジタル(WD)や台湾の鴻海精密工業の陣営とも交渉していることを明らかにした。しかし、売却先を決めた後に各国の独占禁止法の審査に最短でも半年以上かかると言われており、これから逆算する早期に売却先を決めないと時間的な余裕はない状況だ。東芝はこの売却で1兆円近い資金を捻出して何とか債務超過を回避したい方針だ。
しかし、ここまでの交渉経過を見ると東芝は迷走している。6月中旬の時点では「日米韓連合」に決まったかに見えたが、売却先をめぐって東芝内部の意見が分かれた。その後、シャープを傘下に入れた台湾の鴻海精密工業、米国のファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)などが買い手として名乗りを上げてきた。
さらに交渉を複雑化させたのが、官民ファンドの産業革新機構が関与してきたことだ。革新機構はあくまで売却の主導権は日本側が維持することを目指しているが、参加している企業からは「革新機構はビジネスが分かっていない」という声も聞こえてくる。経済産業省からは「半導体技術が海外に流出するのは国益を害する」という理由から鴻海精密工業への売却には難色を示してきた。また、WDは売却方針をめぐって東芝側と対立、CEOが来日して綱川社長に対してWDへの売却を迫ったが東芝は拒否した。
東芝の対応に反発したWDは5月には国際仲裁裁判所に子会社売却の差し止めと求めて提訴した。同裁判所は結論が出るまでに長期間かかるのが通例で、これを待っていては期限の来年3月が過ぎてしまう。日本の大企業がこれだけ多くの利害関係者が絡まった複雑なメガディールに関与するのは初めてのケースで、それだけに決着させるのは容易でない。
注目の東証の審査結果
決算内容については「限定付き適正」だったが、企業内部で不正会計などを防止する制度や仕組みが整備されているかを評価する「内部統制報告書」では、「不適正」とされた。「工事損失引当金の見積もりと、引当金の認識時期の妥当性を検討する内部統制が適切に運用されていなかった」と明記されており、東芝が原発事業での巨額の損失を見過ごしてきたと批判している。
東芝は15年に不正会計問題が発覚しており、会計処理が適切に行われているかが問われていた。今回、海外の案件ではあるが損失とすべき判断が遅れたことは、綱川社長をはじめとする経営陣のリスクに対する認識が甘かったということになる。綱川社長は「内部統制は強化しており、そのほかのことで不備はない」としているが、東芝が本当に内部統制のできた会社に生まれ変わったかどうかはまだ判断できない。
また東芝は上場廃止について東証から審査を受けており、この審査の結果次第では上場廃止になることもあり得る。東芝株は15年9月から有価証券の虚偽記載で特設注意市場銘柄に指定され、今年3月15日から監理銘柄指定となっているが、8月1日付けで東証1部から2部へ降格となった。日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの算定銘柄からも外された。日本を代表する名門大企業が2部銘柄となることについて東芝の幹部は「2部銘柄になってもすぐにビジネスに影響することはない」とみているが、一部の銀行は東芝への融資額を減らす動きもあるようで、東芝を見る投資家の視線も厳しくなってきている。
一方、経営難から2部に降格していたシャープは、鴻海精密工業の支援を受けたことで経営が安定してきたことで1部への昇格を申請する。
東証は、15年の不正会計問題で管理の不備が露呈した内部のチェック体制や、原発工事の損失など海外事業での監督体制などを中心に審査をしているとみられる。仮にこの審査の結果、上場廃止となれば、東芝は社会的信用を一気に失うことになる。