次の標的はドイツ総選挙か
ISは7月、拠点だったイラクのモスルを失い、シリアの事実上の首都ラッカでも、すでに米支援のクルド・アラブ人連合部隊が市の半分を奪還し、ISの組織的な壊滅は切迫している。ISの幹部らはラッカから脱出し、シリア東部のユーフラテス川渓谷のマヤディーンを新たな首都にしようと図っているものの、かつての隆盛ぶりは及ぶべくもない。
ISの戦いは今後どうなっていくのか。昨年8月に米空爆で殺害されたISの公式スポークスマン、ムハマド・アドナニは「領土の喪失は敗北を意味するものではない。砂漠に一時的に撤退し、再起を期す」と述べて、一過激組織として生き残っていく考えを明らかにしている。
ISはラッカ陥落後、イラクとシリアの国境地帯でのゲリラ活動に重点を移していくと見られている。しかし、その「カリフ国家創設」という過激思想が死滅することはない。世界の現状を見れば、むしろ拡散傾向にすらある。IS思想はすでに、イラク、シリアから中東・アフリカやアフガニスタンなどの西南アジア、そしてフィリピン、インドネシアなど東南アジアにまで広がった。
しかも、欧米の治安当局はシリアやイラクから逃亡したISの戦闘員が欧州に舞い戻り、テロを起こすケースや、過激思想に触発されたホーム・グロウン(母国育ち)の「一匹オオカミ型テロ」が今後、増えると警告している。今回のバルセロナ・テロはそうした懸念が現実化したものだ。ISがこれまで欧州に密かに送り込んだ「休眠細胞」はまだ多数が眠りから覚めていない。
欧米でのISのテロの狙いは「イスラム教徒とキリスト教徒の分断を図ること」であり、大きな注目を集めるイベントが狙われやすい。そういう意味で、次の標的として心配されるのが9月24日のドイツ総選挙だ。
このお盆の夏休みに日本から欧州やアジアの観光地に旅行した家族連れも多かった。旅行先として、専門家の間でISのテロの可能性が高いと憂慮されていたアジアのリゾート地なども含まれていた。テロは忘れた頃にやってくる。バルセロナ・テロは油断しないよう、そうした教訓を私たちに思い起こさせてくれたと言えるだろう。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。