2022年11月29日(火)

サイバー空間の権力論

2017年9月29日

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塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

桁外れのコンテンツ配信費用

 ネットフリックスは世界中の企業と契約してコンテンツを収集・配信しているが、近年ではオリジナル作品の制作も行っている。「ハウス・オブ・カード――野望の階段」、「ストレンジャー・シングス――未知の世界」やポン・ジュノ監督作品の映画「オクジャ」などのほか、日本ではフジテレビと共同制作した『テラスハウス』、又吉直樹原作の『火花』などがオリジナル作品として制作されている。

 人気獲得のためにもキラーコンテンツは必要だ。ネットフリックスはあるインタビューの中で、2018年にはコンテンツ配信に70億ドルをかけると答えている。そしてすでに2016年は50億ドルをかけており、2017年は60億ドルをかけるという。そのうちの大多数は他社コンテンツを配信するためのライセンス料であり、オリジナル作品のコンテンツ制作費の比率は少ないというが、それでもこの金額は驚くべきものだ。

 比較として、日本のテレビ局の番組制作費を挙げておきたい。2016年度の在京民放5局(日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)の番組制作費の合計は4154億6400万円だ(各局の決算資料の合計で、売上等とは異なる。詳しくはリンク先の記事を参照)。5局すべてを合わせた金額を大きく引き離すネットフリックスの金額の高さが理解されるだろう。

 確かに、世界中にユーザーを抱えるネットフリックスであればその規模が必要なのかもしれない。とはいえその規模が増せば増すほど、ただでさえインターネットやSNSによってその影響力の低下が指摘されるテレビ局は苦境に立たされるだろう。

 芸人の明石家さんまは、ネットフリックスで動画を制作することからネットフリックスのネットCMに登場し、自らの葛藤を口にする。彼はテレビで育ち、テレビに恩義を感じており、本来ネットフリックスはライバルであると述べた上で、しかしコンテンツの制作費がテレビと比べて高いとも述べている。

アニメのグローバル化を狙うネットフリックス

 勢いの止まらないネットフリックスが注目しているのはアニメだ。ネットフリックスは2017年8月に、自社主体で多くのアニメを制作すると発表している。人気マンガ「バキ」のアニメ化や、80年代に一世を風靡した「聖闘士星矢」を作品冒頭からの再アニメ化することなどが発表されている。アニメは表現手法からいっても、世界中の文化に溶け込みやすい。また日本のアニメが世界中で好まれていることは周知の事実だが、特にアニメのグローバル展開をネットフリックスが担うというのだ。

 日本のアニメーション制作の現場は昔から苦しく、近年ではアニメーターの低年収などがメディアで取りざたされることも多い。ネットフリックスがその豊富な資金力によってアニメ制作に力を入れるとなれば、現場のアニメ制作関係者にとっては喜ばしいことだろう。

 またインターネットではテレビと規制等のルールが異なることから、コンテンツ制作者にとってより自由度の高いコンテンツ制作が可能なことも指摘できる。こうして、予算も多く脚本に口を出されることも少ないアニメーション作品が、今後多く制作されることが期待される。

 さらに上述の通りネットフリックスは世界中に顧客を抱え、視聴履歴からその好みも把握している。海外でも人気の作品のアニメ化(上述の『聖闘士星矢』はヨーロッパや南米、中国などでも大人気)を推し進めたり、より世界にマッチしたアニメ制作が行われるなど、グローバル化による内容も刷新される可能性がある。

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