サイバー空間の権力論

2017年9月29日

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塚越健司 (つかごし・けんじ)

拓殖大学非常勤講師

1984年生。専攻は情報社会学、社会哲学。著書に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)、共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、など。TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』火曜ニュースクリップ担当としてレギュラー出演中(http://www.tbsradio.jp/dc/)。

グローバル化の弊害とは

 とはいえ、好条件によって日本のアニメやドラマ、映画制作者の多くがネットフリックス等のオンライン動画配信サービスに向かうとどうなるだろう。グローバル企業に日本のアニメ制作の命運が握られてしまうとすれば、それは日本のアニメ産業界にとって打撃ともなる。

 問題はフランスで議論されている。2017年にフランスの「カンヌ国際映画祭」のコンペティション部門にネットフリックスのオリジナル映画作品2本が選出されたが、フランスの映画興行界は反対。結局来年(2018年)から、出品する作品はフランスで劇場公開が義務付けられた。フランスでは映画の動画配信は劇場公開開始から36カ月後でなければならないという規定もあり、これではネットフリックスはわざわざ映画祭出品のために動画の公開を36カ月も待たなければならない。要するに、事実上の締め出しというわけである。この問題はカンヌ映画祭を終えてもなお多くの議論を巻き起こしている

 一方、こうした処置はフランスの映画興行界を守るという意味では重要だ。資本力やユーザーの人気を背景にあらゆるコンテンツを動画配信サービスに握られてしまっては、国内のコンテンツ産業は危機に陥る。もちろん国内の産業構造にも問題が指摘できるが、いわば既存産業と新興産業の間で大きな溝が生じている。特にこれは日本のアニメをめぐって大きな問題となることが予想される。

動画サービス戦国時代は続く

 本稿はネットフリックスの説明に比重が置かれたが、こうしたオンライン動画配信サービスの他にも、「動画」をめぐって大きな動きもある。紙幅の関係上、手短に説明したい。

 まず音楽配信サービスの「Apple Music」は、なんと動画も公開している。現状では数も少なく人気とは言い難いが、報道では動画コンテンツを高額で制作し会員向けに公開するという噂もある。その狙いは音楽配信サービスの競合相手を引き離す戦略であることが予想されるが、それでもアップルもまた動画コンテンツの制作に本腰を入れることで、コンテンツ市場はより活性化するだろう。

 次に、2017年8月にアメリカの一部のユーザーを対象に開始された、フェイスブック版YouTubeともいえる新機能「watch」である。これはフェイスブックのフィード内でYouTubeのような動画がみられるサービスで、すでにフェイスブックが資金を投入して独自コンテンツを公開している。これが成功すれば日本を含む海外でも展開される可能性がある。ただしwatchは本稿が論じてきたコンテンツとは異なり、動画を通してユーザーの交流を図るものなど、SNSの強みを活かしたものとなることが予想される

 さらに、サイバーエージェントとテレビ朝日が共同で出資したインターネットテレビ「AbemaTV」を忘れてはならない。2016年4月に開始され無料で大量のコンテンツが投下されるこのサービスは、2017年4月の時点でアプリが1600万ダウンロードを突破。現状では赤字運営なものの、今後の展開が注目されている

 さらにすでに指摘したように、ネットは地上波とは規制のルールが異なる。故に、(良くも悪くも)より自由度の高いコンテンツが公開できるほか、演者側もいわゆる「芸能界の掟」に縛られず自由な活動が可能となる(筆者はこの点が重要だと感じている)。この問題については稿を改めて論じなければならないが、事務所との軋轢や業界の問題など、様々な事情で地上波に出られない芸能人などもネット番組では活躍している。ネットに押される既存の放送業界と比較すれば、こうした状況はネットがテレビの隠れ家として機能するのではなく、逆説的に今後はネットこそが主戦場となる可能性をも感じさせられる。そしてネットフリックスなど海外の動画配信サービスが日本に参入する現在、良い意味で「外資の力」が発揮されるとすれば、それは喜ばしいことであろう。

 こうして世界規模で広義の「動画産業」が変化しつつある今、日本の放送業界等もまた様々な選択を迫られている。旧来的な業界ルールなどの見直しが求められる等、巨大なグローバル資本を前に様々な試行錯誤が求められているということだ。動画配信戦国時代に突入した今、どのような未来が到来するか、注目したい。

  
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