世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年10月18日

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 台湾の蔡英文政権が誕生してから一年半近くになろうとしていますが、台湾の各種アンケートの示すところでは、蔡の支持率は、初期の期待に反して、低迷した状況が続いています。今回の行政院長(首相に相当)の交代決定をどう見るかについて、「台北タイムズ」の社説が頼清徳の就任に期待を寄せつつ、課題は多いと述べ、同時に蔡総統のリーダーシップ全体について、より攻撃的であるべきである、と注文をつけています。

 前行政院長の林全については、古い国民党系の人物たち(「泛藍陣営」)を閣僚に任命したとして、しばしば批判されました。台湾の内政については、全体として民主化は定着しましたが、かつての38年間という長期に及んだ戒厳令期の国民党一党独裁時代の遺物を完全に清算することは容易ではありません。

 例えば、「年金改革」一つをとってみても、国民党時代以来、優遇年金を受け取ってきた軍人、公務員、教員らの既得権益層の反発を招かずには、改革を進めるのは困難です。その他、税制改革、司法改革、インフラ建設計画、週休二日制など、いずれの内政上の課題も短期間に成果を出すのは困難です。

 「林全行政院長の下にあった閣僚たちは国民党系が多く、台湾人意識の比較的低い官僚的アプローチをとることが多かった」と「台北タイムズ」が批判する所以です。

 それに比べて、今度新しく行政院長に任命された頼清徳については、台南市長として有能な指導者であったというイメージが強いです。今回、蔡総統が頼を抜擢したことにより、蔡政権の信頼度がどこまで回復することができるか、注目を要する点です。台湾民意教育基金会が17日に発表した9月の最新世論調査結果によると、蔡英文総統の政権運営への支持率は、46.4%(8月は29.8%)に急上昇したとのことです。

 蔡英文政権は、対中国政策において、これまで「独立」でも「統一」でもない「現状維持」策をとってきました。台湾の政権にとっては、「現状維持」とは、国連のメンバー国ではなく、国際的に孤立しているものの、同時に中国の支配下にもないことを意味します。

 また、中台間には「92年コンセンサス」(「一つの中国」に同意し、その内容については中台が各自解釈するとの合意があったとされる)に対し、いかなる立場をとるか、という問題があります。中国政府は終始一貫して蔡英文が、その前の馬英九政権同様、「92年コンセンサス」に同意することを要求してきました。「92年コンセンサス」は、「一中各表」の言葉で表されるように、曖昧な同床異夢から成り立っています。

 蔡英文自身は、中国との関係においては「独立」は封印しつつも、曖昧な内容の「92年コンセンサス」も受け入れなし、との首尾一貫した対応をとっています。そして、全体として中国を刺激・挑発するような発言を控えてきました。

 それにもかかわらず、中国は蔡英文政権に対し、種々の圧力を加えてきました。中国は中台双方の窓口機関同士の対話・交流を停止し、国際場裡では世界保健機関(WHO)、国際民間航空機関(ICAO)への台湾の参加を阻止し、台湾承認国であったパナマ、サントメプリンシペを中国承認へと切り替えさせました。また、中国から台湾への団体旅行者数を激減させました。

 なお、新しい行政院長の頼清徳は中台関係につき「自分は親中、愛台の立場をとる」と述べています。

 台湾における独立支持派の人物たちの中には、「台北タイムズ」の本社説が指摘するように、中国の種々の圧力に対し、蔡政権は受け身に立つだけではなく、より明瞭で強力な方策を打ち出すべきであると主張する人が多くなっているのが現状です。

  
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