胡錦濤の指示で動く
孤立する温首相
政治改革をめぐり党内で孤立している温家宝だが、実は胡指導部にとって政治的にも敏感になっている「日中」関係でも注目の的になっている。
しかし北京の中国外交筋によると、日本との尖閣問題をはじめ重大な対外戦略は、胡錦濤を組長、習近平国家副主席を副組長とする「党中央外事工作指導小組」が最高意思決定機関となっている。同筋は、「対日政策は小組の秘書長・戴秉国・党外事弁公室主任(国務委員)が胡錦濤と相談して決めており、温首相はラインから外れている」と明かす。
ハノイでいったん温と菅直人首相との日中首脳会談が固まりながら、中国側は土壇場で拒否し、翌日に中国側が10分間の「懇談」を持ち掛けるという異例の事態が展開されたが、温はもはやこういう意思決定には関わっていないと言われる。北京の胡錦濤の指示を受けて動いているにすぎない。
「温は5月末に訪日し、鳩山由紀夫首相(当時)との会談で、東シナ海のガス田開発交渉の早期再開を持ち出した。指導部内の合意があったが、人民解放軍総参謀部を中心に対日融和派への反発が強まっている」と語るのは中国筋だ。胡錦濤は温と共に対日融和派と見られがちだが、もはや「何より党の安定を重んじる保守派」(共産党関係者)と党内では認識されている。軍の強い反対がある以上、自分の身を投げ捨ててまで対日関係の改善に突き進むことはないだろう。
続発する反日デモ
脅える胡指導部
いったん拒否した日中首脳会談の裏に、10月16日以降、地方の内陸都市で相次いでいる反日デモの影響があったかのだろうか。結論から言うと「イエス」だ。
今回の一連の反日デモは、靖国神社参拝問題を受けた2005年の反日デモとは本質が変わってきている。GDP(国内総生産)で日本を超える経済力が自信となり、もともと存在した「大国意識」が強大なナショナリズムとして爆発しやすい民衆の状況に胡指導部はますます怯えているのだ。
共産党・政府が黙認する反日デモはもともと、中国の意に反した言動を取る日本側に強烈なメッセージを送る大前提がある。10月16日の場合は、同日に東京で行われた大規模反中デモの意趣返しだ。
ここで共産党・政府が裏で操作する反日デモがどう変質していくか挙げてみよう。
(1) 若者らの就職難など普段から溜まっている社会へのうっ憤を「反日」に吸収させ、一気にガス抜きしてしまう
(2) 「反日」スローガンに紛れて社会のうっ憤が表面化してしまう
(3) 社会不満が「反党・反政府」に転化し、しいては一党独裁体制や言論の自由を求める民主化要求に発展してしまう