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2010年11月24日

 ふらふらすべしとの持論について、「自分を正当化するために言ってると、みんな言う」とは冗談だろうが、柳田の飄々とした雰囲気、笑いを誘う語り口には、幅のない生き方をしてきた人にはない人間くささがある。研究室を率いる立場としても、「やったらしまいや」─自分で思うことをやってみれば、何とかなるものさ─と背中を押してきた。研究室の人によれば、悩みを抱えて柳田の部屋を訪れた人は、たいてい笑顔になって出てくるそうだ。その人柄や実績があるから、柳田にミッションと自由を与えられた研究者たちは意気に感じるし、柳田も求心力を持つのだろう。いい人材が集い、目標に向かってそれぞれが頑張るのも頷ける。

 とはいえ、今は何かにつけて、拙速に成果を求める。ふらふらするのを認めるには、時間軸が障害になるのではないだろうか。

 「シンプルな世界では、試行錯誤をコンピュータが計算したほうが圧倒的に速いから、それでうまくいってきました。これからは混沌の中からいい方向を見つけるのが必要で、それは人間の時間内でやればいいこと。10のマイナス9乗なんて時間でやる必要はありません」

 「生物は、誰もデザインしていないのに40億年の試行錯誤でここまで来た。こんなに複雑なものが自律的に動くって、たいへんです。コンピュータではできないことを僕らはやっているんだから、ふらふらも認めようや。40億年かけて僕らは完成しているから、1年あればかなりやれる。自信を持ってふらふら探せ」

 これが幸せだとみんなが信じていた、わかりやすい生き方は行き詰まり、時代の閉塞感をもたらしている。なのに「こうやって生きなさい」と言われ続けてきた多くの人は自分で打破する術を持たず、「夢を見させてくれない親が悪い、政府が悪い」と言う始末。でも、ふらふらしながら自分で進む道を探してこそ人間だ。固定観念を捨て、それこそ分子にどうしたいかを聞いたらいい。自分の体の中の本性に耳をすませば、出口も自分で探せるはずだ。(文中敬称略)
 

◆WEDGE2010年12月号より

 

 

 

 

 

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