2024年12月10日(火)

ちょっと寄り道うまいもの

2010年11月27日

 秋から冬にかけての山里は豊かだ。そう書きながらあちらこちらの情景が、美味が思い浮かぶ。例えば、丹波。京都・大阪の食文化を支える山里である。

 思いついて福知山線に乗った時は、まだ鬱蒼とした緑であったが、この記事をご覧いただいている頃は紅葉のはず。とくに11月下旬頃は、宝塚の駅を越えてトンネルを抜けたら、さぞや見事な紅葉だろう。

 散策しながら、ゆっくりと眺める景観といえば、石像寺。丹波竹田の駅を降りて、歩く。京都や奈良の有名寺院の有り様とは違うが、丹波には、ほっとするお寺がたくさんある。中でも、このお寺の石庭がゆっくりと出来る場所で、さらにその裏山を登った展望台からの眺めが圧倒的なのだ。山里の暮らしが一望出来る壮観。

 といって、食いしん坊の飲兵衛がそれだけのために行くわけがない。駅への戻り道には、これまたお気に入りの造り酒屋、西山酒造場がある。「小鼓〔こつづみ〕」ブランドの蔵である。

 国の有形文化財に登録されているという、由緒ある建物がよい。主役である日本酒も食べ物をうまく引き立ててくれ、好ましいのだが、地元の黒豆や栗などを使って作った焼酎がまたよろしい。のんびりと試飲などさせてもらい、さて、何を買い込むかというひとときが楽しい。

 ここにいると、昔から造り酒屋が地域文化のサロン、センターだったことを実感する。

 江戸末期に創業のこの蔵の3代目は俳人として知られ、親しくしていた高浜虚子に小鼓と名付けてもらっている。文化人が集い、地域に中央からの文化がもたらされたのだということを、伝統的でありつつ、モダン、ハイカラな雰囲気をたたえた建物からも感じられる。

 現在でも、伝統を守りつつ、新しいことに旺盛な好奇心を持っていることは、当代である6代目が、イタリアからグラッパの蒸溜器を持ち込み、グラッパ(ちゃんと日本の味)や、土地の味の焼酎を造っていることから、分かる。酒の伝統と新奇の両面を併せ持つことが知れる。

「無鹿」の前菜盛合せと鹿肉のロースト。 丹波の幸を銘酒小鼓とともに堪能できる

 伝統的なものに新しい工夫を合わせた、面白い「食」も味わえる。柏原〔かいばら〕駅にほど近い「無鹿〔むじか〕」というお店の料理。

 この柏原、かつて柏原藩陣屋があったところだけに、古い町並みや戦前の洋風建築が残っている。その散策が楽しい。昔の民家を改装してお店にしたところがいくつもあって、この無鹿もその一つ。で、主役が鹿と土地の野菜。

 このあたり、関西の落語のネタでイノシシが有名だが、鹿も多すぎて迷惑なほどなのだという。それを食べる工夫に発し、土地の野菜などの食材にも焦点を当てたというわけだ。


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