海野素央の Love Trumps Hate

2017年12月24日

»著者プロフィール
著者
閉じる

海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 それに対して、北朝鮮の慈成男(チャソンナム)国連大使は、「核開発は自衛手段である」と反論し、開発を正当化しました。トーマスとキルマンのモデルを借りれば、米朝は自国の立場に固執しており、対決姿勢を鮮明にした点で「競争型」といえます。

 議長国であった日本の河野太郎外務大臣は、国際社会が協力して、最大限の圧力を北朝鮮にかけるように呼びかけました。趙顕韓国外務第2次官は、来年2月に開催される「平昌冬季五輪は平和の五輪である」と語り、北朝鮮の参加と対話の機会を促しました。平昌冬季五輪を成功させたい韓国は、今後、「調和」の道を探る傾向が一層強くなることが予想されます。

 北朝鮮問題解決の鍵を握っている中国の呉海涛国連次席大使は、「対話と交渉による平和的解決」の重要性に訴えました。一方、仲介役を通じて影響力行使を狙うロシアのワシーリー・ネベンジャ国連大使は、相互尊重の対話に基づいた「政治的・外交的手段」を強調しました。中露両国は、軍事介入ではなく対話を通じて「妥協点」を見出そうとしています。いずれにせよ、閣僚級会合では、利害関係国の北朝鮮問題に対する対処法の相違が顕著に出ました。

圧力強化の仮面を被るティラーソン

 ワシントンでは、ティラーソン解任説が浮上しています。それに伴い、ティラーソン国務長官の発言に最近大きな「ぶれ」が目立つようになりました。

 筆者が注目した点は、「平和的圧力」の修正です。11月20日、トランプ大統領が北朝鮮をテロ支援国家に再指定すると、ティラーソン国務長官はホワイトハウスで記者団を前に、簡単な状況説明を行いました。冒頭、同長官はこれまで主張してきた北朝鮮への「平和的圧力」と、トランプ大統領が繰り返し述べる「最大限の圧力」は同じであり「混乱するべきではない」と、記者団に語ったのです。

 本来、「平和的圧力」は対話を通じた外交的手段による解決を意味し、「最大限の圧力」は軍事行動を含んだ力による解決を指しています。ところが、ティラーソン国務長官は2つのメッセージを「同等である」と述べ、トランプ大統領に同調しました。更迭が現実に迫っているという強い危機意識が働いたのでしょう。

 しかし、12月12日ワシントンのシンクタンクでのインタビューの中で、ティラーソン国務長官は北朝鮮問題に関して「前提条件なしで対話に応じる用意がある」と、突然ホワイトハウスの政策と不一致の、しかも本音ともとれる発言をしました。同長官の軋轢に対する対処法は、「競争」というよりも「妥協」であり、中国、ロシア及び韓国に立場が近いといえます。

 ティラーソン国務長官の「前提条件なしの対話」発言は、「更迭が差し迫った同長官の「最後の賭け」であり、トランプ大統領と安全保障チームに対する「抵抗」とみることができます。

 それに加えて、「焦燥感」も透けて見えます。ティラーソン国務長官は更迭された場合、「トランプ大統領に両腕を縛られて何も遂行できなかった国務長官」と、レッテル貼りをされるからです。「トランプ大統領にツイッターの投稿を通じて、北朝鮮に対する外交努力を否定された国務長官」という印象も、米国民に残るからです。

 ティラーソン国務長官は、残された時間の中で、北朝鮮問題に関して自分が対話による平和的解決の道を切り開いたというレガシー(政治的功績)を作りたいのです。このような心理状態にある同長官ですが、上で述べた閣僚級会合では、自身の意思に反して、圧力強化の仮面を被って「前提条件なしの対話」を修正し、ホワイトハウスの意向に沿った発言をせざるを得ませんでした。

 これでティラーソン国務長官が、トランプ政権において影響力がないことが誰の目にも明白になりました。もはや同長官は、「死に体」同様です。

関連記事

新着記事

»もっと見る