ご飯を炊くように研いだコメからパンを焼き上げる。とにかく反響がすごい。2010年7月に商品を発表すると予約が殺到し、発売日を約1カ月遅らせて11月とした。しかし、注文のペースは落ちず、同月のうちに今年度内の販売計画である5万8000台に到達し、受注は11年4月まで一時中断することとなった。店頭での実勢価格は5万円程度と、通常のホームベーカリーの倍程度だが、自分が買ったコメからつくる安心感や、材料費も比較的安いことなどが人気を呼んだ。小麦成分を一切使わない「小麦ゼロコース」の焼き方もあり、アレルギーで小麦パンが食べられなかった人々の支持も高い。
1斤の食パンを焼く材料は、洗った白米220グラムと水200ccのほか、適量の砂糖、塩、ショートニング(食用油脂)、小麦グルテン、ドライイーストであり、合計で150円程度。小麦ゼロコースでは米や水の量を増やし、ショートニングと小麦グルテンの代わりにオリーブ油と上新粉を使う。
小麦や玄米でも食パンが焼け、パン生地、麺類、モチなど多彩な機能も備える。米粉を使った市販の米パンは、コメ独特の風味が残るが、ゴパンで焼いた米パンは通常の小麦パンに近い風味や食感との印象だ。
三洋電機の米パンへのアプローチは、今回が初めてではない。03年10月に業界初の米粉ベーカリーを発売している。政府がコメの消費拡大策として米粉の利用を推奨したからだった。しかし、当時は米粉の流通量が少なく値段も高いため、このベーカリーの売れ行きは不発に終わった。
「ゴパン」の商品企画を担当した三洋電機コンシューマエレクトロニクスの家電事業部リビング企画二課担当課長、岡本正範(39歳)は、「米粉の難しさを思い知らされた」と当時を振り返る。しかし、岡本は米パンへのニーズの潜在力は確信していたし、会社も食糧自給率向上の観点などから、このプロジェクトを途中放棄することはしなかった。
03年末には、コメから粉をつくって焼き上げるベーカリーの開発が始まった。拠点となった鳥取工場の技術陣は、石うすや市販のミル(粉砕器)などで米粉をつくり、パンを焼いてみたが、見た目も味も目標からは程遠いものだった。セラミックス製のミルでつくった米粉でパンを焼いた際には、セラミックスのかけらがパンに混入していたこともあった。
コメを粉砕するのではなく
水にひたすという発想
コメ粒は想像以上に硬く、技術陣の前に文字通り岩盤のように立ち塞がった。仮に専用のミルが完成しても、ベーカリー本体にどう組み込むかという問題があったものの、それ以前に「おいしいパンが焼けなかった」(岡本)のである。炊飯器やホットプレートなどを含む調理器の企画グループでは毎年、開発の進捗状況などを報告しあう会合をもつが、岡本のチームからは「今年もおいしいパンは焼けませんでした」という報告が続いた。