米国の現状と見通しについての極めて厳しい見方です。イグネイシャスは米国を代表するジャーナリストであり、このような厳しい見方は、米国の知識人に共有されているのでしょう。
イグネイシャスは、トランプの下、米国は国内が政治的に分断され、海外の競争相手に対し脆弱になっている、と言っていますが、米国が海外の競争相手に対し脆弱になっているのは、国内の分裂のためだけではありません。トランプが「アメリカファースト」を唱え、自由世界のリーダーであることを辞め、世界戦略を持っていないことが基本的要因と考えられます。
イグネイシャスはさらに、意見を聞いた元軍司令官がそろって、米国がいざ戦争という際動員ができないほど国内が分極化していることを最も恐れていると述べています。動員ができないほど分極化しているとはいかなる状況なのか明らかではありませんが、経験豊かな元軍司令官たちがそう言っていることは由々しきことです。
トランプの不人気はイグネイシャスの指摘を待つまでもありませんが、問題はトランプの支持者の中枢の意見が変わっていないことです。トランプがどんな失策を犯そうと、失言をしようと、彼らの支持は変わりません。トランプはこれら確信的支持者の支持をつなぎとめようと、彼らに人気のありそうな政策を実施、支持固めに余念がありません。この点、イグネイシャスが、トランプが分断と不和のレベルを彼の最も熱心な支持者でさえも懸念せざるを得ないレベルにまで引き上げてしまい、それが世論調査に反映されていると言っていることは注目に値し、今後注意深くフォローしていく必要があります。
イグネイシャスはトランプの下、党派的分断が拡大していると述べていますが、党派的分断はトランプ以前からもありました。オバマケアや気候変動をめぐる共和・民主両党の見解の相違がその例です。トランプの下で、そのような党派的分断に拍車がかかったということでしょう。
イグネイシャスは米国の分断の中で党派的分断を重視していますが、それに劣らず重要なのが、エスタブリッシュメントと反エスタブリッシュメントの対立です。トランプ支持派の中核は高卒のブルーワーカーであると言われていますが、このグループは、本来は民主党支持であったはずです。それがトランプ支持に回ったのは、トランプが反エスタブリッシュメントだからであり、今米国の国民はエスタブリッシュメントと反エスタブリッシュメントに分断されていると見るべきでしょう。この分断は厳しく、当分は強まることはあれ、弱まることはなさそうです。
イグネイシャスは、米国が外国の秘密工作に対して脆弱である例として、米国を第二次大戦に参戦させた英国諜報組織の工作に言及しています。このレポートは、米国の第二次大戦参戦という歴史的出来事に関するものである上に、米国の決定的な外交政策に対する外国の諜報工作という点から重要なものです。
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