2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2018年1月26日

科学とギャンブルは切っても切れない間柄

『完全無欠の賭け  科学がギャンブルを征服する』
(アダム クチャルスキー 著、柴田裕之 翻訳、草思社)

 本書は、統計モデリングや物理学、シミュレーション科学、ゲーム理論、人工知能といった最新科学を総動員したノンフィクションである。宝くじからルーレット、ポーカー、競馬、さらにサッカーや野球などのスポーツベッティングや金融市場まで、多岐にわたるギャンブル攻略の科学史を紹介する。

 それはまさに、ギャンブル必勝法の研究が科学を生み、科学の進展がギャンブル必勝法の研究に反映されるという、「今なお回り続けているサイクル」にほかならない。

 著者のアダム・クチャルスキーは1986年生まれで、ロンドン在住。ケンブリッジ大学で数学の博士号を取得し、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で数学モデリングを教えながら統計学や社会行動の論文を発表している。

 サイエンスライターとしてポピュラーサイエンスの記事も書いているというだけあって、数学や統計学は苦手という読者でもとっつきやすいよう、ギャンブルをめぐるさまざまな逸話を映画のワンシーンのように眼前に展開してみせる。

 まず序盤、サイコロ賭博にまつわる疑問から「偶然性の科学研究」が花開く話は、幕開けにふさわしく、興奮する。ガリレオやケプラー、パスカル、フェルマーといった科学の巨人たちがサイコロの目に取り組んで、「数学の分野に一連の完全に新しい考え方が誕生した」のだ。

 数学者のリチャード・エプスタインが言うように、「ギャンブラーには確率論の生みの親を名乗る権利がある」わけだ。

 賭け事のおかげで、「個々の結果が出る可能性にどれだけ賭ける価値があるかを純粋に数学的な形で研究者が理解できるようになった」のに加えて、「私たちが実生活でさまざまな決断の価値をどのように見積もるのかも明らかになった」と、著者は語る。

 実際、こんにちの保険業界全体を下支えしているのは、「期待効用」という概念だ。

 <科学とギャンブルが切っても切れない間柄であることには、特別驚くまでもないのかもしれない。なにしろ、賭け事は偶然性が支配する世界を覗き見る窓だからだ。賭け事は、リスクと報酬をどのように天秤にかけるべきかや、なぜ境遇次第で私たちの価値判断が変わるかを示してくれる。また、私たちがどのように意思決定を行うかや、運の影響をコントロールするために何ができるかを解明するのを助けてくれる。>


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