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2018年1月26日

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山口亮子 (やまぐち・りょうこ)

ジャーナリスト

2010年京都大学文学部卒業、2013年北京大学歴史学系大学院修了、時事通信社を経て16年よりフリージャーナリストとして活動。

金燕のウェイボーの投稿

 金燕はこれに黙っていなかった。すでに不動産を差し押さえられ、母親と娘と一緒に借家住まいになっており、到底判決を受け入れられる状態ではなかったからだ。12月7日には控訴のために北京高等法院を訪れ、その情報を自身のウェイボーのアカウントにアップし、心境をつづった。

 「この法律は無数の無辜の女性を陥れてきた。私は自分の生存権のため、そして全中国の女性のために裁判をする」

 金燕は協議の存在は知らなかったし、署名もしていない、お金を夫婦の共同生活のために使ったわけでもない、建銀文化が違法に小馬奔騰の株を投げ売りしていて、こちらも異議申し立て中だとしたうえで、最後にこうつづっている。

 「法律は万人に平等というのはスローガンに過ぎないのか。法治国家はただのスローガンに過ぎないのか」

民意の高まりが政治と司法動かす

 彼女の訴えは同感を呼び、フォロワーは1万人を超え、ニュースの注目度は高まっていった。12月下旬に行われた全国人民代表大会の法制工作委員会では、民意の高まりを受けて婚姻法の第24条について、問題があり解決が必要だと位置づけた。1月23日の法治週末は「24条、家事と国事」という記事でこう伝える(http://www.legalweekly.cn/article_show.jsp?f_article_id=15419)。

 「(12月24日の)報告によると、ここ5年の間に法制工作委員会が国民や組織から受け取った審査の提案の記録は1527件。このうち、2016年以来、法制工作委員会が国民から受け取った24条に対する審査の提言は1000件近く、最近の各種審査の提案の3分の2近くを占めていた」

 1月に入ってからも盛んな報道が続き、1月17日に事態は急転換する。1月24日の新京報の記事はこう描写している(http://www.bjnews.com.cn/finance/2018/01/24/473795.html)。

 「1月17日、金燕は自分の静安東街にある会社『正在発生文化伝媒』の事務所に入った。取材に来ている記者を前に、彼女はソファーに落ち着いて座っていることができず、時として立ち上がり、事務所を歩いて心の起伏を落ち着けていた。49歳の誕生日を迎えたばかりの金燕は、意外な誕生日プレゼントを受け取ったばかりだった。それは最高人民法院から来たものだった」

 最高人民法院は、世論の高まりを受けてこの日、下記の新たな司法解釈を発表したのだ。

 「明確に夫婦双方が合意し、あるいはその一方が家庭の日常生活に使うために負った債務は、夫婦の共同の債務と認定し、共同して負担する必要がある。婚姻関係の存続している期間に一方が家庭の日常生活に使う債務を超えて負った債務は、債権者がその債務が夫婦の共同生活や共同経営に使われたと証明するか、夫婦双方の共同した意思表明によるものだと証明できない限り、裁判所は夫婦の共同の債務とは認定しない。この司法解釈は1月18日から施行する」

 こうして悪名高かった解釈は新解釈にとってかわられた。金燕は「法治の進歩で、喜びを分かち合おう」と自身のウェイボーでコメントした。彼女の二審の判決が出るのはまだ先だが、新たな解釈が判決に影響を与える可能性は大きい。民意の盛り上がりが法律を変えた好例と言える。

  
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