クチンスキー政権がフジモリ恩赦を行うのではないかとの見方は、かねてよりありましたが、このような展開をたどることは予想外でした。父フジモリの負の遺産のお陰で2度の大統領選挙に接戦で敗れたケイコは、あえて恩赦問題からは距離を置き、多数派を占めた議会を通じてクチンスキーを追い込み、早期の大統領選挙実施を目論んでいました。他方、フジモリ派党員でもある弟のケンジは、父親の恩赦を最優先事項とし、その威光を借りて次の大統領選挙に立候補しようとしていました。このような姉弟のライバル関係の前に降ってわいたようなクチンスキーの汚職疑惑と弾劾手続きでした。
今後のペルー情勢の混迷は避けられませんが、とりあえず2つの問題の行方にかかっているといえます。
1つは、フジモリ派が分裂するか否かです。フジモリ派の党議に反して弾劾採決を棄権したケンジ一派が追放されるのか、これを機会にケイコ派から離反者が出て、ケンジ派に分裂するのか、という問題です。
2つ目は、恩赦によって徹底的に批判されているクチンスキーは、国民和解のため野党からの参加も得て新内閣を組閣すると表明しましたが、これがどのような顔ぶれになるかです。大統領選挙決選投票でクチンスキーを支持した左派ポピュリストは、弾劾賛成派と反対派に分裂していましたが、恩赦の後は双方とも反クチンスキーの立場を明確にしています。ケイコがこれでクチンスキー追い落としの立場を変えるでしょうか。ケンジ派の10人だけでは、身内からも離反者が続出している満身創痍のクチンスキーを支えきれません。新内閣がどのような顔ぶれになるのかで、ある程度その後の運命も予測がつくでしょう。
見逃せないのは、恩赦された父フジモリの影響力です。健康上の理由での恩赦ですから、本来政治活動などできないはずですが、2人の子供の間の調整ができるとしたら、それは父フジモリでしょう。恩赦の可能性はかねて父フジモリ周辺からも出ていた話であり、病院から出た父フジモリは、国民に対し謝罪を表明するとともに、クチンスキーの国民和解の呼びかけを支持する旨述べています。しかし、父フジモリの政治的影響力が目立てば、それだけペルー国内の対立は深まるという面もあります。
左派党派は、今回の恩赦を大統領の違法として再度弾劾手続きを要求する動きや、弾劾の合法性を法廷で争う趣であり、それらの帰趨も要注意です。
いずれにしても、しばらく様子を見る必要があります。
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