2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年2月7日

 クチンスキー・ペルー大統領がフジモリ元大統領に恩赦を与えたが、これは法の支配を掘り崩す行為だ、と1月4日付の英エコノミスト誌が強く批判しています。要旨は、以下の通りです。

(iStock.com/laski/ bodrumsurf)

 12月24日夜、クチンスキー大統領が突如フジモリ前大統領に恩赦を与えた。フジモリの息子、ケンジ議員が率いるフジモリ派10人の棄権のお陰で、クチンスキーの罷免決議案が否決されてわずか3日後のことだった。クチンスキーは、恩赦は「人道的理由」によると主張したが、それを信じる者はほとんどいない。

 フジモリの専制的支配が崩壊して15年以上経つが、彼は今も国を分断している。支持者は、フジモリはペルーをハイパーインフレと毛沢東主義テロから救って経済成長をもたらしたと言い、反対派は、三権分立体制を破壊し賄賂を行い暗殺に関与した独裁者だと言う。いずれにしても、フジモリは有罪判決を受け収監されたのであり、金持ちや権力者の免責がまかり通る南米においても、法の前では万人が平等であるべきことを示した画期的出来事だった。

 フジモリは現在79歳で既に10年以上服役し、心臓に問題を抱え、舌癌の寛解期にある。一方、クチンスキー政権はフジモリの娘、ケイコの報復的姿勢に悩まされてきた。彼女は過去2回の選挙で惜敗し、クチンスキー弾劾の動きの黒幕でもあった。

 クチンスキー政権は、フジモリ政治の犠牲者の意見を聞くことも、フジモリに謝罪を求めることもせずに恩赦を行った。結局、今回の恩赦はクチンスキーの政治的生き残りのための取引だったのだ。元々、クチンスキーが選挙で勝ったのは、ひとえに反フジモリ感情のお陰であり、弾劾についてもフジモリ派のクーデターだと激しく非難した。ところが、今や彼は自らをフジモリ派の人質にしてしまった。本来の支持者はもう彼を支持しないだろう。

 フジモリの恩赦の数日前、ブラジル大統領も汚職で捕まった仲間達に恩赦を与えようとしたが最高裁に阻まれた。南米も法の支配を享受し始めている。大統領が恩赦の特権を行使してこれを掘り崩すようなことはすべきではない。

出典:Economist ‘The troubling pardon of Alberto Fujimori’ (January 4, 2018)
https://www.economist.com/news/leaders/21733999-presidential-powers-should-not-be-used-undermine-rule-law-troubling-pardon


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