2024年11月22日(金)

ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2018年3月21日

上(⑨)、下(⑩)

 そもそもこの木が「臥龍梅」とどこで分かるかって? はい、それは、名を記した看板がその木の前にだけ立ててあったことからです。そう、絵の左上、これがその「臥龍梅」と書かれた看板(⑨)。その裏側を広重さんはわざわざ描いたのです。そして絵の左端には、立て札の「足」が半分だけ描かれています。立て札の足に沿って視線を下へおろしていくと、手前に梅の木の幹が描かれているところがあり、その部分だけ足は隠れ、さらに下にまた「立て札の足」の続きが⑩。梅園の中で、この「臥龍梅」だけが名を掲げていたとか。


  前述のゴッホさんの習作「日本趣味:梅の花」にも、しっかり「立て札と足」は描かれていますが、その「足」は、何故か幹の手前に描かれ、最後は「額」へと変化を遂げています。さすが、天才画家!? 興味深いアレンジです。しかし、日本を愛した素敵なゴッホさんも、その作品の中に描いた漢字には、絵画と違い苦労した様子がうかがえます。

  臥龍梅の奥には、おこそ頭巾を被った人や縁台に座る人など、6人さん(⑧)。お茶を飲みながら、この梅園で詠んだ句や川柳を競う「梅試合」でもやっているところでしょうか。

  九州の太宰府に倣ったといわれるこの梅屋敷の名物は梅干し。当時、のどの痛みをやわらげ、よく痰を切るといわれた梅干しは、民間薬としてもニーズがあり、あまりに売れすぎて近郷からも集めていたともいわれます。

atelier PLAN=地図制作 写真を拡大

【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。

【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

●ボストン美術館蔵「スポルディング・浮世絵版画コレクション」について
米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。

  
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◆「ひととき」2018年3月号より


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