安保激変

2018年3月1日

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村野 将 (むらの・まさし)

ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て現職。日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program,米国務省International Visitor LeadershipProgram(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

再定義された核兵器の役割

 NPR2018が注目を集めた論点の1つに、核兵器の使用基準をめぐる表現ぶりがある。オバマ政権のNPR2010では、核兵器の役割を他国から核攻撃への抑止に限定する「唯一目的(sole purpose)論」を採用する条件は整っていないとしつつも、それは目指すべき目標であるとして、核によらない攻撃を抑止する上では通常戦力の活用の幅を拡げるなどして、核の役割を低減させていく方針が示された。

 だが今次NPRは、「核攻撃の抑止は核兵器の『唯一の目的』ではない」と断言して、NPR2010との違いを明確にしている。更に、核使用を検討するのは、米国や同盟国、パートナー国の死活的利益を守る「究極の状況」に限るとしながらも、「究極の状況」には、核によらない重大な戦略攻撃(significant non-nuclear strategic attacks)――米国や同盟国、パートナー国の民間人・インフラに対する攻撃、核戦力に対する攻撃、核戦力の指揮統制・警戒・攻撃評価能力に対する攻撃――を含むとして、その解釈を大幅に拡大した。同時に、オバマ大統領が任期末に検討した「核の先制不使用(no first use:NFU)」についても、同盟国やパートナー国への抑止と安心を担保する上で、現在米国がNFUを採用することは正当化されないと念押ししている。

 これらの書きぶりについては、既に核軍縮の専門家などを中心に、核使用の閾値の低下や使用基準の曖昧さなどを問題視する声が上がっている。NPR本文に明記されてはいないものの、ここで想定されている状況の1つには、軍の指揮統制機能や民間の重要インフラに対する大規模サイバー攻撃、あるいは電磁パルス(EMP)攻撃といったノンキネティックな攻撃によって、作戦遂行が著しく困難になったり、多くの人の日常生活にかかわる甚大な被害が発生することが予想される場合に、核報復の可能性を示唆してその懲罰的抑止効果に期待するといったケースが考えられる。

 この種の攻撃は、現在のところ有効な損害限定(防御)手段を講じるためのコストが著しく高く、かといって策源地を何らかの手段で先制的に無力化することも確実でないことから、核による懲罰的抑止に頼る余地を残そうとしておくこと自体が間違いとは言い切れない。ただしそれは、万一敵からの攻撃が実行された場合に、何を標的にどの程度の規模の核報復を行うのかが明確ではないことから報復の信憑性を欠き、結果的に期待した抑止効果を発揮できないという曖昧戦略特有の問題があることにも留意しておく必要があるだろう。

 他方で、NPR2018が唯一目的化とNFUを明確に否定していることは、米国の核兵器が報復のためだけではなく、先制的に使用されるケースが存在しうることを示している。核作戦の実施に際し、NPR本文では「武力紛争法と統一軍事裁判法に則り、(相手の)民間人被害を最小限にとどめ、抑止を回復して紛争終結に努める」と断わりつつ、「米国や同盟国に対する損害限定のためには、ミサイル防衛に加えて、敵の移動式システムを発見、追跡、狙い撃つ能力を含む適応的な計画立案が求められる」との説明がなされている。

 この記述からは、ロシアや中国、北朝鮮の核・ミサイル戦力が移動発射台(TEL)搭載のミサイルを中心に構成されていることを踏まえ、それらに対しても米国が核を用いたカウンターフォース(対兵力打撃)を行うことも辞さない姿勢を誇示する狙いが読み取れる。核運用政策におけるカウンターフォース重視はこれまでにも謳われてはいたが、NPRが具体的なターゲティングの在り方に言及するのは初めてであり、踏み込んだ記述と言えるだろう。

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