安保激変

2018年3月1日

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村野 将 (むらの・まさし)

ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て現職。日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program,米国務省International Visitor LeadershipProgram(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

ロシア・中国・北朝鮮・イランに対する
具体的な抑止戦略

 NPR2018では、今日必要とされる抑止の在り方として、「万事に適用できる一つの型(one-size fits all)」ではなく、それぞれの脅威の様相に合わせた「テイラード(tailored)」アプローチの必要性が説明されている。こうした考え方は、多少の表現の違いはあっても、ブッシュ政権の「4年毎の国防見直し(QDR)」2006、オバマ政権のQDR2010、NPR2010などでも踏襲されてきたもので、特段新しい発想ではない。それよりも特筆すべきは、欧州とアジアへの拡大抑止の在り方に加えて、ロシア・中国・北朝鮮・イランの4カ国を対象とした各国別の戦略を明記していることだ。

 ロシアについては、限定的な核の先制使用の可能性を示唆し、自ら状況をエスカレートさせることで、最終的にロシアにとって望ましい形で紛争を終結させようとする戦略("escalate to de-escalate" doctrine)をとっていると分析した上で、米国や地域諸国に対する核の先制使用は、それが限定的であったとしても受け入れられず、露指導部にとって耐え難いコストが生じることを理解させる必要があるとしている。その上で西側は、米国の大陸間弾頭ミサイル(ICBM)、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)及び戦略ミサイル原潜(SSBN)、戦略爆撃機からなる「核の三本柱」、欧州に展開されたNATOの非戦略核戦力、英仏の核戦力を組み合わせた、高い残存性と柔軟性、即応性を有する核・非核の能力によって、ロシアの目標をリスクに晒しうる態勢を維持するとしている。

 これに続く欧州における拡大抑止に関する項目では、核・非核双方の任務を行う戦術航空機(dual-capable aircraft:DCA)の残存性やその計画立案能力の改善を図り、核作戦支援を含むNATO同盟国の役割を拡大することを訴えている。現在NATOでは、核作戦計画の共有は行われておらず、DCAと非戦略核の配備こそ続けられていても、それらは米国の防衛コミットメントを示す象徴としての意味合いが強く、実際の使用は想定されていない。もしこうした方針がNPR2018を受けて見直されるとすれば、欧州の核抑止態勢は冷戦以後、再び重要な転換点を迎えていると言えよう。なお、DCA任務における同盟国の役割拡大については、DCA配備基地の防護強化や現在の5カ国(オランダ、ドイツ、ベルギー、イタリア、トルコ)以外の加盟国からもパイロットを招集し、訓練を行わせることなどを検討していると考えられる。

 一方中国については、その核能力と運用ドクトリンの因果関係をロシアほどは明確にしていない。しかし、「中国の軍事近代化と地域ドミナンスの追求は、アジアにおける米国の利益に対する主要な挑戦」とした上で、周辺国と歴史・領土問題を抱えていることや、米国に到達しうる防護されたICBMやSLBM、地域の同盟国や米軍基地・戦力をカバーする戦域弾道ミサイル能力を警戒するとともに、米国の戦力投射を阻害するA2/AD能力についても続けて言及している。その上で、「米国の対中戦略はいかなる限定的な核使用であっても、それによって中国が有利となると中国指導部に誤解させないようにすることだ」として、「米国は核・非核の侵略に対し、断固として対応する用意がある」と明記している。

 北朝鮮については、同国の最優先事項は金正恩体制の生き残りであると評価し、「米国や同盟国に対する核攻撃は体制の終わりを招く」と警告。加えて、金体制と重要な装備・指揮統制能力が地下化され堅固に防護されていることを指摘しつつ、それらは米国の核・非核攻撃の対象となっており、北朝鮮のミサイルを発射前に弱体化させることのできる早期警戒・攻撃能力も保持しているとして、具体的なカウンターフォース能力が強調されている。

 これらの戦略との関連で目を引くのが、アジアにおける拡大抑止に関する説明である。そこでは、アジアは欧州と異なり(1)脅威が多様であること、(2)NATOのような単一の多国間同盟が存在せず、二国間同盟・協力を通じて、それぞれ程度の異なる協力と役割分担を行っていること、(3)NPR2010を経て潜水艦搭載型核トマホーク(TLAM-N)が退役したことにより、アジアにおける核態勢は戦略核戦力への依存が強くなっていることなどから、拡大抑止に関する協議・調整の形式が欧州とは異なっていると述べられている。

 この論理構成はやや遠回しであるが、後述する核戦力構成の見直しと合わせて考えると、その意味するところが見えてくる。すなわち、拡大抑止環境の改善を図る手段として、時折提唱されるNATO型の核共有(nuclear sharing)メカニズム(=DCAと非戦略核の展開)をそのままアジアに適用することは積極的には検討していないものの、TLAM-Nの退役によってエスカレーションラダーにギャップが生じていることは認めざるをえず、それを補完するためにアジア太平洋地域における核戦力構成の見直すに至ったということだ。この点については、次回詳しく分析を加える。

*後編(3月2日公開予定)へ続く

  
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