上記は、2月14日に米下院軍事委員会で行われた公聴会でのハリス米太平洋軍司令官の発言の一部である。朝鮮半島では、2月9日に平昌オリンピックの開会式があり、文在寅韓国大統領は、安倍総理とペンス米副大統領の他に、北朝鮮の金正恩労働党委員長の妹である金与正氏を来賓として迎えた。北朝鮮は「微笑み外交」を演出し、韓国はそれに応じるように宥和的態度を示した。そんな最中でも、米国議会は、朝鮮半島を管轄する米太平洋軍トップの司令官をワシントンに招いて公聴会を開催した。どんな時でも、的確な情報を得て、それをもとに議論し法律を立案していく米国議員の姿勢は、さすが民主主義大国のアメリカ合衆国である。
内容に関しては、特に目新しいものはないが、米国が北朝鮮の脅威を緊迫したものとして捉え、国務省を中心に圧力を強化している段階ではあるが、軍としてはどんな事態にも対処できるよう準備している、という決意が伝わる発言だった。核兵器、化学兵器、生物兵器という大量破壊兵器を北朝鮮が有していること、近距離、中距離、長距離全てのミサイルが米国や同盟諸国に脅威であること、特殊部隊を含めた通常兵力も脅威となりうること、簡潔な発言の中にも、これら全てが語られた。どれをとっても侮れないものであるとの分析である。また、国連安保理制裁や米国を含む各国の圧力は効いてはいるものの、中国やロシアの役割は大きいのに、十分には役割を果たしていないと述べている。
この公聴会の冒頭、ハリス司令官は、超党派で防衛費の増額を承認してもらったことに感謝の意を表した。国際情勢が緊迫する中、財政赤字が膨らんでも米国は防衛費の増額を決定した。日本でも、防衛費の増額を超党派で合意することができるのだろうか。対北朝鮮政策でも重要な要素である。
この公聴会から約10日後の2月23日、トランプ政権は、北朝鮮に対する新たな独自制裁措置を発表した。国連安保理決議を逃れて、北朝鮮が石油や石炭を密輸するのを助けている中国や台湾、シンガポールを拠点とする運輸会社やパナマやタンザニア船籍の船に対して、米国が取引を禁止し、米国内の資産を凍結するというものだ。56の企業等が制裁対象となり、過去最大級のものと言われている。平昌五輪の最中であっても、米国は北朝鮮に圧力をかけ続けている。一貫した姿勢である。トランプ大統領は、この制裁発表を受け、その他の国も米国のような制裁措置を行なって圧力を強めてほしいと述べた。果たして日本はどうするのか。国会での議論が待たれる。
平昌五輪の閉会式は2月25日に行われ、北朝鮮側からは韓国を通して、米国と直接対話がしたい旨が伝えられていたようだ。2月26日、トランプ大統領はホワイトハウスで、州知事らを前に、北朝鮮の非核化のために条件が整えば対話の用意はある、と述べた。すなわち、対話のための対話は行わないという従来の姿勢は崩していない。また、トランプ大統領は、この20年過去の大統領達は、北朝鮮の核開発を阻止することができなかったが、当時の方がまだやりやすかったはずで、現在の状況はもっと厳しいとの認識を示した。確かに、今思えば、その通りだろう。
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