江藤哲郎のInnovation Finding Journey

2018年3月21日

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江藤哲郎 (えとう てつろう)

ベンチャーキャピタリスト

 鹿児島県出身。1984年慶應大商学部卒業。同年(株)アスキー入社。86年マイクロソフト(株)設立に参加し、マーケティング部長代理としてWindowsコンソシアム、マルチメディア国際会議等を立ち上げる。

 92年(株)電通入社後、デジタル・コンテンツの開発とビジネス化を推進。2002年から情報システム局でSAPアジア共通会計システムを中国・アジアの30拠点に導入他、国内外の全システム開発を担当。2013年から経営企画局専任局次長として、電通が約4,000億円で買収したイージスとのグローバルIT統合の責任者。

 2015年7月、ワシントン州カークランドにInnovation Finders Capitalを設立。AI、ビッグデータ等スタートアップを日本と繋げる。家族は妻と一男。
 

 一方、マイクロソフトのクラウド事業も好調だ。近年マイクロソフトの主な収益源はOffice 365のクラウドサブスクリプションビジネスモデルへの転換だったが、加えて主力商品へのAI搭載が進んでいる。Officeシリーズ全体のAI化がその例で、PowerPointにはCortanaの音声認識と自動翻訳技術が移植され既にベータ版が出荷された。ピッチイベントなどプレゼンテーションで使用する際に、簡単に字幕テロップがでるのが特徴。同社のデータビジュアルツールのPower BIもビッグデータ、MLのダッシュボードツールの標準となりつつあり、お家芸である標準化を着々と進めている。

迫られるマイクロソフトかグーグルかの選択

AIミートアップで講演する筆者 ©︎Naonori Kohira

 そのマイクロソフトOfficeの牙城を崩すべく、グーグルはOffice 互換のファイルフォーマットをクラウドでサポートし始めた。その対抗措置かどうかはともかく、マイクロソフトはこの春主催するBuildデベロッパーズカンファレンスを、グーグル主催の I/Oと同じ日程にぶつけてきた。開発者はマイクロソフトかグーグルかの選択を迫られている。

 マイクロソフトはAI倫理の分野でも世界的リーダーシップをとるべく、ブラッド・スミス 社長が先月のダボス会議でAIの倫理的課題を取り上げ、AIに関する規制を各国政府に呼びかけた。また、ワシントン州政府はシアトルとベルビュー近郊を国際AIゾーンとするプロジェクトを準備中で、近くその発表が行われそうだ。中国、サウジアラビアなど各国でもAI都市構想は発表されているが、ワシントン州がそれらの都市構想と決定的に異なるのは、キープレイヤーとエコシステムの存在。

アマゾンは第2HQ構想を発表したが、シアトル市内での拡張も続く ©︎Naonori Kohira

 クラウドの2強であるアマゾン、マイクロソフトの本社があり、加えてグーグル、フェイスブック、セールスフォースなどのシリコンバレー大手、さらにはBATと呼ばれる百度、アリババ、テンセントの中国勢のAI研究開発拠点が既にある。スタートアップの勃興も目を見張るものがあり、これから開発会社を誘致しようという構想レベルとの差は歴然としている。今後AIがどのように開発され社会、産業、教育などに活用されるか、その先例の多くはシアトル発で世界に発信されることになるだろう。

 シリコンバレーのIT情報サイトCrunchbase Newsは、2017年のAIスタートアップへの投資が「既にピークに達した」と発表した。2017のディール数は730件で、調達総額は50億ドル弱。内容を見ると相変わらずエンジェルラウンドが大多数を占めるものの、シリーズAラウンド割合が増加し、今後も資金調達の大型化が進む傾向にある。このセクターへのベンチャー投資額も高水準だが、やはりこの地域の700社を超えるAIスタートアップの社数は世界最大のボリュームゾーンである。

同上

 シアトルでの同分野の概況だが、起業家や投資家の話をベースに纏めると、2017年はAI スタートアップにとり優勝劣敗の分水嶺となる重要な年だった。資金調達の面では、2015年から16年にかけこの地で起業した無数のAIスタートアップが勝ち組と負け組に振り分けられ、勝ち残ったスタートアップのみが1000万ドル規模のベンチャーファイナンスに成功。但し大規模なベンチャーファンドが存在しないシアトルだけでこの額を調達するのは難しいため、シアトルの起業家達は頻繁にシリコンバレーに出向きピッチをしている状況だ。

 事業の面でスタートアップに対して大きな影響を及ぼしているのが、AWSとマイクロソフトによるAIとML(機械学習)関連サービスの大規模リリース。中でもAWSが続々とリリースするAIサービスとバッティングする技術を開発するスタートアップは、苦戦を余儀なくされている。一方こういった状況でも、AWSに対抗し売り上げを伸ばしているスタートアップも少なくないのは、この地のAIスタートアップとそれを支えるエコシステムの層の厚さの現れとも言えよう。

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