2024年12月22日(日)

江藤哲郎のInnovation Finding Journey

2016年11月19日

 今シリコンバレーからシアトルへ、人と企業の流入が始まっている。本年8月17日付シアトルタイムスの記事では、シリコンバレーのエンジニアにアンケートをとると、最も多い12%の人が次のステップとしてシアトルへの移住を希望している。次点は8%でお隣のポートランドだ。

シアトル市街 ©︎Naonori Kohira

 合計すると20%が米北西部を目指していることになる。シリコンバレーでは不動産が高い、物価が高いと、問題が噴出しているが、一方でワシントン州は環境が良く、食べ物が美味しく、治安もいいから子育てにも最適だ。シアトルでは20歳以上の大学卒業率が人口の50%以上だが、これは全米の他都市ではまず見られない高い数字だ。

 これら高い教育水準の人材と環境の良さを求めて近年、多くのシリコンバレーの大手企業がシアトルに拠点を作っており、第3回ではその代表的な社名を紹介した。中でもグーグルは以前からシアトル郊外のカークランドで一般道の自動運転実験をしているが、人員を1000人から倍の2000人にすると発表し、シアトル中心部にビルを4棟建設中だ。

習近平訪問団が不動産を爆買い?

 さらには新たなランドマークとなる超高層ビルの建設計画もある。マイアミに本拠を置くクレセント・ハイツが開発する同ビルは当初101階建てだったが、日照権や航空規制等により94階建てへと修正。それでも向かいにある現在米大陸北西部最大のコロンビア・センターの76階を上回る。住居1200戸、ホテル150室、駐車場750台、商用面積16万7150スクエアフィートと過去最大規模だ。

 これらの建設ラッシュのために、現在シアトルは全米で最もクレーンが多く設置されている。第7回ではシアトルはマシン・ラーニングの首都へと変貌中と書いたが、ところがどうして今やクレーンの首都と言うべきかもしれない。

林立するクレーン ©︎Naonori Kohira

 2015年9月22日、中国の習近平国家主席はシアトルに降り立った。初の訪米で一週間かけて各地を周るが、最初の訪問地に選んだのはニューヨークでもサンフランシスコでもなく、シアトルだった。日本ではボーイング300機の爆買いが、米国内ではマイクロソフトやアマゾンのトップとの会合がクローズアップされたが、現地シアトルでの関心は全く他のところにあった。不動産だ。

 習が会談を行っている間、約100名からなるお付きの集団は実は不動産を物色していた。地元の中華系不動産業者のほとんどが動員されオフィスや住宅の物件を紹介して回っていたことは、街で大きな話題となった。バンクーバーで締め出された中国人が今度はシアトルを買いに来た、という動きに反応してのことである。

 1997年の香港返還の頃、広東語を話す多くの中国人がカナダに渡ったことは広く知られている。一方それから約20年経って、カナダでは中国からの移民を大きく制限し始めたことは、知らない方は多いかもしれない。カナダ国内での多くの軋轢がそうさせたと言っていい。アメリカはEB5という主に中国人を対象とした時限立法措置による投資ビザを発行しており数年で永住権も獲得可能だ。同様のビザが廃止になったカナダに容易に入れない中国人はそこに目を付けた。

 昨年10月ベルビューにて、私は知人に招かれ地元誌425 Magazine等を出版するプレミアメディアの社主ジョシュ・ダンと会談した。私が電通時代に中国での経営インフラ整備をしており中国との関わりも深い事を知人が紹介すると、ジョシュは先の習近平訪米の際のシアトルでの不動産爆買いへの意見を求めてきた。


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