2024年12月22日(日)

江藤哲郎のInnovation Finding Journey

2017年1月19日

 私は昨年12月初めに、マイクロソフト本社のあるワシントン州レドモンドのビルディング99でMSR(マイクロソフト・リサーチ)のチーフ・プロダクト・オフィサーであるヴィクラム・デンディと会い、スカイプにAIを搭載した日英のリアルタイム・トランスレータのデモを体験した。まだ発表前の製品だったが、英語から日本語への同時通訳にかなりの自信を持っているようだった。思わず、同行していた日本の大手メーカーやIT各社幹部と目を合わせたが、やはり反応は芳しくなかった。日本語に関しては我々が日本人であり要求レベルが高いことを差し引いても、まだかなり改良の余地ありだった。しかし私は思った。日本語が最後の方に後回しになるよりは良かったと。一方で英中のデモ映像は上海の会議場で収録されたもので、それを見る限り精度は実用化のレベルまで達していた。

シアトルから望むマウント・レーニア ©︎Naonori Kohira
 

 同社はその3カ月ほど前の9月、それまで各部署に分散していたAI開発と事業関連の部署全てをMSRが母体となる形で一カ所に統合した。約5000人の部隊として発足したのがマイクロソフトAI&リサーチ・グループだ。この新しい事業部の活動によりコルタナは勿論、スカイプ、オフィス365などの同社の代表的製品がAIの機能を順次搭載していく。同社の言うAIの民主化の一環であり、現実的なアプローチだ。これらは世界中で使われている正にグローバル・スタンダードのソフトウェアであり、この何億人というユーザーがAIのベネフィットを最初に享受するべきだという考え方だ。

真のオープン化

 日本に戻った私は年末に、同社品川オフィスにて80年代のサードパーティ同窓会の様な面々の集まりに参加した。日本のWindows対応ソフトの草分けであるイーストの下川和夫社長の呼びかけだった。そこで伊藤かつら役員配下の現役のエバンジェリストの皆さんから説明を受けた。同社のAIのサービスを受けるにあたり、OSはもはやWindowsである必要はない。MacでもLinuxでもいい、と。素晴らしいことだ。最もユーザー本位の考え方であり、真のオープン化だ。これなら対応ソフトを開発する側もやりやすい。四半世紀ほど前、Windowsソフトを増やすためにコンソシアムを立ち上げた身としては、本当に嬉しかった。アップルとのユーザ・インターフェイス訴訟、IBMとのOS/2を巡る確執、ソフトバンクの孫正義社長にコンソシアム会長就任をお願いしビル・ゲイツと握手して貰ったことなどの数々の記憶が頭を巡ったが、ここにエバンジェリズムは脈々と生きていた。


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