2022年8月12日(金)

江藤哲郎のInnovation Finding Journey

2017年1月19日

»著者プロフィール
著者
閉じる

江藤哲郎 (えとう てつろう)

ベンチャーキャピタリスト

 鹿児島県出身。1984年慶應大商学部卒業。同年(株)アスキー入社。86年マイクロソフト(株)設立に参加し、マーケティング部長代理としてWindowsコンソシアム、マルチメディア国際会議等を立ち上げる。

 92年(株)電通入社後、デジタル・コンテンツの開発とビジネス化を推進。2002年から情報システム局でSAPアジア共通会計システムを中国・アジアの30拠点に導入他、国内外の全システム開発を担当。2013年から経営企画局専任局次長として、電通が約4,000億円で買収したイージスとのグローバルIT統合の責任者。

 2015年7月、ワシントン州カークランドにInnovation Finders Capitalを設立。AI、ビッグデータ等スタートアップを日本と繋げる。家族は妻と一男。
 

 同社はこれに先駆けオープン・プラットフォームに方針を転換しているが、これには大きな理由がある。主戦場がクラウドに移行したのだ。アジュールに収容してくれさえすれば、その上で機能するOSなどプラットフォーム以上のレイヤーは何でもいいということだ。それらのレイヤーでのテクニカルなギャップはプラットフォーム事業者などBtoBの世界で全て吸収してくれるので、ユーザーはそれぞれが持っている端末からのアクセスが可能になる。

 主戦場となったクラウドの提供者は、アマゾン、グーグル、IBMを加えた所謂4強であり、AIエンジンの4強でもある。各社とも技術のオープン化を推進しつつ、スタートアップの囲い込みには余念がない。中でもマイクロソフトとアマゾンはお膝元のシアトルでAI関連の有望なスタートアップにはアジュールとAWSを無償供与している。青田買いのための奨学金供与競争みたいなもので、しかもマシン・ラーニングのモジュールとセットだ。そのためシアトルではAIで有望なスタートアップが多いこと、マイクロソフト・アクセレレータで現在育成する10社は全てマシン・ラーニングかデータ・サイエンスであることなどは第7回でも述べた。こうしてこの地ではAI産業の裾野が広く形成されつつある。

 AIといえば、多くの方々がチャットボットを連想するほどになったが、この分野も日進月歩だ。マイクロソフトが以前デビューさせたTayは悪意による攻撃で差別や陰謀論を学習したために停止を余儀なくされたものの、問題となった部分に制限をかけZo.aiとして12月に再公開された。Zoは前述のレドモンドでのデモで見たスカイプにも搭載されるという。日本語対応の精度向上と共に期待したい。

 アマゾンの動きもAIのオープン化へ向けて加速中だ。2014年に他社に先駆けて発売したチャットボット家電とも言えるエコーはAI搭載スピ―カーで、そのAIの名はアレクサ。出荷が遅れたグーグル・ホームやJiboなどライバルを尻目に、既に500万台以上を販売した。アレクサは家庭やオフィスで人々と会話しながらどんどん賢くなって行く。注目すべきはアレクサのインターフェイスを公開することで、他社の製品やサービスとの接続が可能になったことだ。レノボのスピーカー、GEの冷蔵庫などの家電は今後ユーザーがアレクサと会話をすることによる操作が可能になる。

右肩あがりの自動車向けAIニーズ

 私のカークランドのオフィスからほど近くに、交通情報を分析し渋滞予測を含めたインテリジェント・データとして放送局などに提供するINRIXがある。私は2年ほど前にCEOのブライアン・ミステレと会い話したが、フォード、マイクロソフトで幹部を歴任した彼は、自動車のインテリジェント化に20年来取り組むパイオニアだ。INRIXはアマゾンのアレクサを同社の自動車運転席用プラットフォームであるOpenCarと接続し、社内のオーディオを操作するサービスを開始する。運転者や同乗者が喋る声だけで選曲し、音読してほしい本のリクエストもできるわけだ。さらに同社が最も得意とする交通情報は乗車中のみならず、出発前に家庭やオフィスでエコーに話しかければ答えてくれるようになる。

 近年ニーズが右肩上がりの自動車向けAIは、その利用法が自動運転から車内エンタテインメントや車内外での情報取得へと広がっている。家電とAIとの接続も米国勢によりどんどん実用化が進む。自動車とエレクトロニクスが未だ基幹産業である日本にとっては、脅威に映るだろう。しかし、その動きを加速させているキーワードがオープン化であり、台風の目はスタートアップであり、彼らの目指すところがグローバル・スタンダードであるということを理解していれば、他国でも打つ手は沢山ある。AIスタートアップの取り込み方次第では、勝ち組になるチャンスもまだまだある。もちろん日本にも。

関連記事

新着記事

»もっと見る