もっとも、すべての資源が同じように上昇しているわけではない。2008年当時の資源価格はとりわけエネルギー・穀物で高騰したが、今回の価格高騰の主役は穀物と金属になっていて、今般エジプト情勢での原油価格上昇が注目されるものの少し当時とは様相が違う。これは、原油では先進国中心に景気回復の弱さに省エネや代替エネルギー活用も加わって需要増が緩やかな一方、金属では新興国の高成長に伴う需要増がそのまま需給に影響していることがある。また、穀物相場では、旱魃などの自然災害もあるし、金属相場に引きずられている面もある。
いずれにしろ、このまま穀物価格が上昇していけば、かつて最貧国で食糧輸入が滞って飢餓問題が生じたような状況を再来させることになるし、エジプトなど以外にもさらにいくつかの国々の政情を不安定化させることにもなろう。
米国金融政策も中東情勢不安定化の遠因
今回の資源価格高は世界経済だけではなく世界の政治情勢にも深刻な影響を及ぼしつつあるが、その背景に米国の金融緩和策の影響もあることは見逃せない。
金融危機後主要国は積極的な財政金融政策で経済と市場の落ち込みを支えてきた。そして、景気刺激策が財政赤字の拡大で難しくなっている現状では、経済下支えの役割は一段と金融政策にかかっている。
しかし、米国の大胆な金融緩和策がグローバルマネーの増加を招き、投機的資金となって新興国のバブル懸念とともに資源価格を上昇させている。すなわち、米国の経済金融政策が資源価格高を通じていくつかの国の政情不安定化の遠因を作ったと言える。
食糧価格高を契機に各国の人々が自国の問題を解決することに対しては悪いなどと言えるはずもないし、そもそも他国がとやかく言う筋合いでもない。しかし、結果はともかくとして、結果をもたらす食糧価格高が好ましいとはいえない。それは、米国などのバランスの取れない経済金融政策についても当てはまる。
もちろん、各国の財政金融政策は一義的に国内経済金融動向を見ながら行うもので、世界の経済や政治情勢への配慮が最優先というわけではない。米国も同じだ。しかし、基軸通貨ドルを有する米国は、ドル信認を維持する国際的責任を負っている。
したがって、QE2という米国のあまりに大胆な金融政策は、米国景気先行きへの楽観的な見方をもたらしたプラスはあるが、一方で資源価格の一層の上昇を招き、世界を不安定化させており、米国の政策としては万全ではなかったと言える。
経済金融政策の軸足は構造改革に移すべき
足元の資源価格高騰は、主要国がバランスの取れた経済金融政策を採ることの重要性を示している。それは、経済にデフレに陥るリスクや高成長が減速する可能性があるといっても、主要国中央銀行が緩和にウエイトを掛けすぎた金融政策を行うことには弊害が大きくなったということだ。
このことは、これからの主要国の金融政策は、国内だけではなく世界経済や国際金融・商品市場にも配慮したものでなければならないということを示しており、金融危機後の政策対応は新たな局面を迎えたということでもある。
すなわち、資源価格高、新興国バブルや通貨安競争に見られるように、大胆な金融緩和の悪影響が見えてきた現状では、日本ばかりか欧米諸国も、経済成長を図る政策の重点を財政金融政策から経済構造改革に置き換えることが求められているということだ。