西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年3月16日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 今回の補欠選挙は、現職候補が性的スキャンダルで辞職した点では共和党にとって好ましくない状況で行われた。しかし、ペンシルヴェニア州はかつて鉄鋼産業で栄えたラストベルトと呼ばれる地域であり、2016年大統領選挙でトランプが労働者階級の白人の票を動員して勝利した州である。今回補欠選挙が行われた第18選挙区の中には、労働者階級の人々が多く居住する地域と、教育水準の高い人が住む郊外の両方が存在するが、そのうち労働者階級の地域でも共和党候補は予想されたほど多くの票をとることができなかった。

 今回の選挙は、共和党が多数を占める連邦議会が減税を実現し、トランプ大統領が鉄鋼とアルミニウムに追加関税をかけることを宣言した直後に行われた。選挙期間中には、トランプが2回、トランプの家族やホワイトハウスの高官も選挙区を訪れて積極的にキャンペーンを行った。にもかかわらず、これらが共和党候補に追い風とならなかったのは、共和党にとって衝撃だった。もちろん、2016年大統領選挙でトランプが勝利したのはその個性によるところが大きく、それを個々の連邦議会議員候補が受け継ぐのは困難だろう。だが、共和党の最重要争点である減税というカードもあまり効果を持たなかったことは、中間選挙に向けて共和党に選挙戦略の見直しを迫ることになるだろう。

 なお、昨年のジョージア州で行われた補欠選挙で共和党が勝利した際には、ある戦略が有効だったとされる。民主党の下院院内総務でリベラル派(=民主党左派)のナンシー・ペロシが保守的な地域で評判が悪いことを受けて、民主党候補とペロシは立場が近いことを示唆する選挙広告を流したことが、ネガティブ・キャンペーンとして効果を持ったというのである。ジョージア州の補欠選挙と今回のペンシルヴェニア州の補欠選挙の結果の違いを考える上で、この点は重要な意味を持つ。

トランプへの反発で民主党内は左派優位に

 今回の補欠選挙でも、共和党とその支持者は、民主党のラム候補はペロシと立場が近いという選挙広告を頻繁に流した。だが、この戦略は効果を持たなかった。ラムはもし自らが下院議員に当選した場合、下院議長を選出する選挙ではペロシに投票するつもりはないと宣言し、共和党の広告を明確に否定したのである。

 ラムは、検察官と海兵隊員という経歴を持つ中道派であり、選挙戦でも、銃所有権の根拠とされる合衆国憲法修正第二条を重視すること、人工妊娠中絶に対して慎重な姿勢をとること、そして、トランプが提唱する新たな関税を支持することなど、共和党穏健派といわれても不思議ではない立場をとっていた。これは、近年の民主党ではなかなか見られない現象である。

 近年のアメリカでは、二大政党の対立が激化するとともに、政党内での路線対立も激しさを増している。民主党内部でも、ビル・クリントンやヒラリー・クリントンに代表されるような中道派と、ペロシなどに代表されるリベラル派(進歩派とも呼ばれる党内左派)の間で激しい路線対立が存在する。現在では、2016年大統領選挙で中道派のクリントンが敗北し、左派のバーニー・サンダースが思いの外強い支持を得たこともあり、党内バランスは左派優位に傾いている。トランプが人種、エスニシティ、ジェンダーなどについて保守的、反動的な発言を繰り返すことへの反発として、左派が活気づいていることもある。

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