2024年12月27日(金)

ちょっと寄り道うまいもの

2011年3月11日

 遷都1300年のイベントも一段落したはず。祭りのあと。古都は落ち着きを取り戻しているのではないか。寺社めぐり、食べ歩きも、今ならのんびりと楽しめるのではあるまいか。

 そう思って新幹線に乗った。

 結果は大正解。平日ではあったが、あの興福寺の阿修羅像ともちゃんと対面できた。ほかの八部衆立像のひとつひとつとも対話するようにゆっくりと。それだけでお腹がいっぱいになるような至福の時。

 本物のお腹を満たす方でも、ゆっくりとご対面したいと思っていたものがある。

 天平の宴、という。

 市内の「奈良パークホテル」で食べられる。平城宮跡から出土した木簡などの資料から、再現した料理。まさに天平の宴である。

 その話は以前から聞いていたもので、遅ればせながら、これを食して、1300年の時に想いを馳せたいと思ったのだ。平たく言うと、胃袋からの好奇心。食い意地。

現代の嗜好を加味して再現された宮廷料理「天平の宴」。古代の贅を堪能できる

 この料理のために作られた特別室まである。「大宮の間」。重々しい扉を開けると、白木のさっぱりとした室内は、当時の宮廷はこのようだったかという、板の間に卓。ただし、ほりごたつ式で、座るのは遥かに楽だが。

 卓の上の折敷〔おしき〕に並べられた小皿や高坏〔たかつき〕も、当時の須恵器を模して作られたもの。その上には、醍醐味という「蘇〔そ〕」。つまり牛乳を煮つめたものをはじめとして、さまざまな酒肴。脇には塩梅料〔あんばいりょう〕。つまり、醤〔ひしお〕、酢、塩(藻塩)が添えられていて、好みで味を付ける。酒は食前酒の「あかい天平の華」という黒米から作られた甘めのそれに続き、白酒と呼ぶどぶろく。

 とにかく徹底している。ありがちな、「なんちゃって再現」とは一線を画す。尾道龍男料理長が随時、やってきては料理の説明をしてくれるのだが、これが、好きで好きでたまらぬ風情。実は奈良文化財研究所の友人を誘って、一献傾けたのだが、料理長が木簡で分からぬことがあると、この研究所の木簡研究者のところに訪ねてくることも有名らしい。それほどの正調。


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