韓国の「読み方」

2018年4月10日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

規定のない忖度も多い「大規模人事」

 難しいのは(7)の人事だ。この記事が「影響」という言葉を使っているのは一種の「逃げ」だといえる。制度として決まっているものは多くないはずなのに、政権の意向を忖度(そんたく)して決まることが当然視されるポストが多いから、どこで線を引けばいいのか判断に迷う。それでも実態として無数のポストが政権交代の影響を受ける実態を見聞きするし、大統領の「絶大な権限」を説明しやすそうだから記事に出すのだろう。

 人事への影響力は強大な「権力」を象徴するとは言えるが、それは制度に裏打ちされた「権限」ではない。制度としては、首相と監査院長、大法院(最高裁)の院長と判事、憲法裁判所長の任命には国会の同意が必要だ。閣僚についても指名後に国会聴聞会で厳しい追及が行われ、結果的に任命断念となるケースが少なくない。制度論の範囲では、大統領の人事権が強大だと言えるかは微妙なところだ。

 ただ文在寅政権になってから、こんなことがあった。公営放送であるKBSとMBCで前の政権与党に指名された理事の不正が相次いで発覚し、失脚。結果的に理事会構成が現与党に有利なものとなった後、前政権下で就任した社長が解任された。解任理由は、不正の疑いや(李明博・朴槿恵)政権寄りの報道をして信頼性を損ねたことなどだ。公募で選ばれた新社長の下で大々的な人事が行われ、報道部門の幹部はかなりの割合が交代した。

 文政権に近い人たちはこれを「9年間の保守政権下で歪められてきた公共放送を正常化させた」と評価している。どう見ても政権交代の結果の人事劇だが、それでもこれは不正追及の結果という形を取っている。政権交代が放送局の人事に影響を及ぼすような制度設計がされているわけではない。

 政権交代にともなって各省庁の高官人事が行われるのは当然だ。そこまでは青瓦台(大統領府)の直接的な指示もあるだろう。そして政府系企業や団体、政府から補助金を受けている団体などでも、政権の意向を忖度する人事が横行する。日本だって同じことだが、「忖度」には法的、制度的な裏付けがないのである。

「内側の人」には見えない

 韓国大統領が強大な「権力」を持っているのは昔からなので、私もそれを当然視して大きな疑問を抱いていなかった。それを変えてくれたのは、旧友である神戸大の大西裕教授(行政学)から数年前に「韓国大統領の権力は制度的に大きいわけではない。その点が日本でも誤解されている」と言われたことだ。韓国への留学経験を持ち、韓国の行政にも通じている大西教授の指摘は新鮮だった。

 朴氏に対する退陣要求の盛り上がりは、大西教授の指摘を改めて考えてみる契機となった。

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