2024年12月22日(日)

イノベーションの風を読む

2018年5月18日

(travnikovstudio/iStock)

 カシオ計算機は、2018年3月期の決算説明会の場で、デジタルカメラ市場からの撤退を表明した。カシオは、1995年に発売したQV-10で、デジタルカメラ産業の先駆けとなったメーカーだ。その翌年から、ソニーがサイバーショットDSC-F1を発売するなど、電機メーカーの参入が相次いだ。そして、キヤノンがIXYデジタルを発売した2000年頃から急激にコンデジの市場が拡大し、2008年のピークには、年間の出荷数量が1億2000万台の規模に達した。

カメラ出荷台数推移 写真を拡大

 2009年の落ち込みは、リーマンショックの影響によるものだが、その裏でジェットコースターのようなコンデジの下降が始まっていた。2016年には、市場はピーク時の1/10にまでに縮小してしまった。

 2007年に、米国でiPhoneが発売された。2008年には、高速通信に対応したiPhone3Gで世界展開が開始され、Androidスマートフォン勢も追走を始めた。2016年のスマートフォンの出荷台数は15億台弱に達している。コンデジの100倍売れていることになる。

 フィルムカメラ時代に「ヤシカ」のブランドを引き継いでいた京セラは、早い段階でデジタルカメラ市場から撤退し、「ミノルタ」と「ペンタックス」のブランドも、それぞれソニーとリコーに事業移管されている。しかし、デジタルカメラ産業の再編は今後も続きそうだ。

レッドオーシャン

 出荷数量では、まだデジタル一眼やミラーレスを上回っているコンデジだが、出荷金額を見てみると、コンデジしか持たないカシオの撤退は避けようがなかったことがわかる。その出荷数量も2017年に下げ止まったかに見えたが、2018年の滑り出しは前年の6割程度にとどまっている。

 オリンパスは2012年に、デジタル一眼と低価格のコンデジから撤退し、ミラーレスと高価格のコンデジに集中してきた。その戦略は、グラフをみるかぎり正しかったように思える。ミラーレスは成長を続けており、コンデジも高価格帯へのシフトが進んでいることがわかる。

 しかし、オリンパスの映像部門は、2017年3月期の決算で7期ぶりの黒字にこぎ着けたものの、2018年3月期には再び12億円の赤字に陥っている。ミラーレスの市場が、2016年から2017年にかけて316万台から408万台に拡大したのに対し、オリンパスのミラーレスは、45万台から42万台に数量を落としている(オリンパスは4月から翌3月までの決算期間の販売数量)。オリンパスは、その理由を「ミラーレス市場が伸長する一方で、競合の本格参入により環境が大きく変化」したためと説明している。

 キヤノンやソニーがミラーレスに力を注ぎ始め、特にソニーは自社製のフルサイズのセンサーを搭載したミラーレスで、これまでキヤノンとニコンが独占してきたデジタル一眼の市場を脅かし始めている。両社が本格的な(本気の)ミラーレスを投入してくるのは必至で、デジタルカメラ産業は、縮小しきった市場のパイを争うレッドオーシャンの様相を呈している。オリンパスにとっては、まさに前門の虎、後門の狼(スマートフォン)という状況になってしまった。

平均単価の推移

 リコーは、2018年3月期の連結決算で、営業損益がマイナス1156億円、純損益がマイナス1353億円の、いずれも過去最大の赤字を計上した。大黒柱のオフィスプリンティング(事務機)分野の不振に、デジカメの収益悪化が追い打ちをかけているという状況だ。この一年間に繰り返されてきたリストラが、さらに続くようで、ペンタックスの買収が完全に裏目に出た格好だ。

 パナソニックは、2017年にデジタルカメラ事業のリストラを行い、パナソニックアプライアンス社のAVC事業の1事業部として組み入れた。2017年度の決算では、デジタルカメラ事業の業績は明らかにされていないが、厳しい状況であることは想像に難くない。


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