ブルーオーシャン
カメラメーカーは、写真を撮るためのハードウェアと競合相手しか見ていないようだ。写真撮影を職業にしている顧客や、鉄道や野鳥などの写真を撮ることが趣味の顧客を奪い合うだけであれば、それでいいのかもしれない。しかし、大きな顧客ニーズを見失っている。
フィルム時代のカメラは、子供の成長記録や旅行やイベントなど、特に結婚してから、子供が生まれて小学校を卒業するくらいまでの間の、「家族写真」を撮影するという用途に使われる割合が非常に大きかった。「家族写真」が撮られなくなったわけはない。むしろ、フィルムカメラの時代よりも、スマートフォンやデジタルカメラで撮られる「家族写真」は桁違いに多くなっているはずだ。
そのユーザー像に該当する周囲の人に、どのように「家族写真」を家族で共有し保管しているか訊いてみてほしい。かつてはプリントされ、アルバムに整理されて共有され保管されていた。今は、おそらく様々な答えが返ってくるだろう。スマートフォンで撮るにしろデジタルカメラで撮るにしろ、ほとんどの人が共通に利用するサービスは存在していない。それは、そこに大きな顧客ニーズが潜在していることを意味している。
スマートフォンのカメラとSNSは、それまでになかった「ソーシャルな共有」という、写真の新しい体験を生み出した。Facebook、Instagram、Twitter、LINE、Snapなど、写真の「ソーシャルな共有」のアプリケーションを数え上げれば切りがない。もし、それらのアプリケーションがなかったとしたら、スマートフォンで撮られる写真の数は激減するだろう。
しかし、「家族写真」のためのアプリケーションは存在しない。その人のリテラシーや、利用できる機材や環境に応じて、さまざまな方法で工夫して苦労して、家族で共有し保管している。あるいは、撮りっ放しのまま放置していることも多いだろう。カメラメーカーは、顧客が抱えている問題が見えていない。または、自らが解決すべき問題だとは考えていない。そこには、誰も気づいていないコンデジのブルーオーシャンがある。
「家族写真」のためのアプリケーションは、「撮る」と「共有する」をシームレスに行うことができ、これまでなかった体験を提供するものでなければならない。「保管」を意識する必要はなく、家族はいつでも、ずっと後でも、簡単に写真を見ることができる。それは、成長した子供たちに自然に引き継がれて行く。「家族写真」はカメラが生成するデータではなく、コミュニケーションを活性化して、家族の絆を深めるものだ。
そのような、誰でもが簡単に使える、まったく新しい「家族写真」のアプリケーションを提供し、そのアプリケーションの一部としてコンデジを再定義したものが、広大なブルーオーシャンでエンジョイすることになるはずだ。
グラフはいずれも、一般社団法人カメラ映像機器工業会(CIPA)の『CIPA REPORT Web版』に基づいて作成した。資料中の銀塩カメラについては、フォーカルプレーンシャッターを「一眼レフ」と、レンズシャッターを「コンパクト」と呼称し、レンズ一体型のデジタルカメラを「コンデジ」、レンズ交換式デジタル一眼レフ(本体)を「デジタル一眼」、光学ファインダーに像を導くミラーを搭載しないノンフレックスのレンズ交換式のデジタルカメラ(本体)を「ミラーレス」とした。
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