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世界の記述

2018年5月17日

 トルコのエルドアン大統領が4月18日、2019年11月3日に予定されていた大統領選挙と議会選挙を1年4カ月以上も前倒しして本年6月24日に実施することを表明した。

(iStock.com/olegback)

 同大統領はテレビ演説で「シリアなどの動きは強力な政策を取れる新行政制度への早急な切り替えが必要なことを示している」「旧制度の旧弊を取り除くためにも新たな選挙が必要」と述べ、国内外の情勢が早期選挙による新統治体制への移行を求めていると説明した。

 トルコは昨年4月16日、首相職を廃止し大統領の権限を大幅に強化する内容の憲法改正を国民投票に付し、賛成51・41%、反対48・59%の僅差で承認した。但し、エルドアン大統領は新権限を行使できるのが次の大統領選挙後からとなるため、自らに有利な時期に実施しようと機会をうかがっていた。

 同大統領が大幅な前倒しでダブル選挙に踏み切った背景には2つの理由があろう。第一は、シリアのクルド人を抑制する軍事作戦により、国内で大統領に追い風となる民族主義が高まってきたことである。

 第二は、今後の経済がさらに悪化するのを懸念したことである。実際、トルコ・リラが歴史的な安さとなるなか、2月の経常収支は42億ドルの赤字となるなど、赤字が常態化しており、インフレ率も4月は11%弱と目標の5%の2倍強の水準となっている。

 国内の世論調査では、18年の実質経済成長率の予測は4・1%と政府目標の5・5%を大きく下回っている。加えて国内外の投資家たちは、2ケタ台のインフレが続くなか中央銀行が大統領の圧力で相対的に低めの金利政策を取るので、同国通貨リラの一層の下落を憂慮(ゆうりょ)している。

 事実、エルドアン大統領は自身を「金利の敵」と呼称し、拡大する経済の腰を折らぬよう政策金利を意図的に低めに維持する政策を続けてきた。

 だが思い起こす必要があるのは、昨年4月の大統領権限を強化する憲法改正の国民投票では賛成派と反対派の支持地域が明確に分かれたことだ。大まかに言えば、大都市は反対派、地方部が賛成派であった。

 ただし、地方部も世俗派の多い地中海沿岸は、東南部を中心にクルド人が多く居住しているため概ね反対派、黒海沿岸と内陸部は保守派が多いことから賛成派であった。

 エルドアン大統領が憲法改正に関する国民投票でも明確になった二分された国論のなかで、国民の民族主義を刺激することにより、思い描くような勝利をダブル選挙で得られるのか。同大統領の指導者としての力量が改めて問われる選挙となるだけに注目される。

  
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