2024年4月27日(土)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2018年5月28日

揺さぶりの道具

 会談中止の書簡を送ったトランプ大統領は、北朝鮮が軟化した態度を示すと、一転して会談開催の可能性を示唆しました。やはりトランプ氏の本音は、歴史的会談の開催だったのです。

 書簡を公表した翌日、米ABCニュースのホワイトハウス担当記者ジョナサン・カール氏の質問に対してトランプ大統領は、「みんなゲームを行っているんだよ。君なら分かっているだろ」と率直な回答をしました。トランプ氏は、金氏への書簡を北朝鮮に対する「揺さぶりの道具」として使用したのです。

 書簡を送付して芝居を打ったわけです。トランプ大統領は会談を中止するつもりは毛頭ないのに、見せかけの振る舞いをしたのです。

 トランプ氏の狙いは、ずばり的中しました。北朝鮮は米国に対する批判を止め、「トランプ大統領が、首脳会談実現のために努力してきたことを内心評価してきた」という談話を直ちに発表しました。26日に行った2度目の南北会談で、焦った金氏は米朝首脳会談実現の意思を仲介役の文氏に伝えました。結局、北朝鮮の本音も会談開催だったのです。

ゲームの勝敗を決めるカギとは

 周知の通り、トランプ氏は米NBCテレビのリアリティショー「アプレンティス(徒弟)」の司会者を務めていました。リアリティショーでは、事前の台本がなく素人出演者が番組の中で予測不可能な言動をとります。司会者は、即座にそれに対応していかけなればなりません。 

 トランプ氏は、番組を通じて予測不可能な言動に対する対処法を学習したのでしょう。金氏の予測不可能な言動に対して、書簡を使って見事に対処し、形成逆転に成功しました。

 トランプ氏は不確実性の高い状況の中で行われている金氏とのゲームを、一見楽しんでいるようにも見えます。ゲームの勝敗は、相手がとる予測不可能な言動に効果的に対処し、そのうえで自分が予測不可能な攻撃に出ることができるか否かです。言い換えれば、予測不可能な言動に対するディフェンスとオフェンスの双方の能力の高さが、米朝の交渉にける主導権争いを決定づけるということです。

  
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