安保激変

2018年7月18日

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村野 将 (むらの・まさし)

ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て現職。日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program,米国務省International Visitor LeadershipProgram(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

 在韓米軍の主力部隊がソウル以南に後退、あるいは撤収した状態で、北朝鮮がソウル周辺に対して延坪島型の突発的な限定攻撃を行うシナリオを想定してみよう。当然、韓国は155mm自走砲「K-9」や弾道ミサイル「玄武2」、あるいは航空戦力を動員して応戦するだろうが、これに対して北朝鮮は300mm多連装ロケット砲「KN-09」や2月の軍事パレードで確認された新型の短距離弾道ミサイル等を用いて、ソウル以南に位置する米韓の軍事拠点に再報復を行う可能性が出てくる。

 北朝鮮がこうした形で再報復を行えば、韓国軍だけでなく拠点を攻撃された在韓米軍も再々報復に乗り出す可能性が高くなるが、北朝鮮はそれに輪をかける形で韓国南部の兵站拠点、あるいは三沢や嘉手納など米軍作戦機の出撃拠点を、ノドンやスカッドER、北極星2で核攻撃する可能性をちらつかせて、米軍の介入・来援を阻止しようとするかもしれない。米軍による先制攻撃シナリオと異なり、この場合には北朝鮮の移動式弾道ミサイルを抑え込むのに必要な多数の航空戦力をあらかじめ適切な位置に集積・展開しておけるとは限らない。したがって対北反撃を決断する場合には、その時点で使える戦力によって限定的な反撃を行うか、本格的な制圧攻撃を行うために一定の時間をかけて周辺地域に戦力を集結させることになる。しかし、当該戦域に増派を決断・実行するその瞬間は最もエスカレーション・リスクが高く、相手にとっては心理的恫喝や物理的妨害を行うタイミングとなる。

 このような具体的シナリオを考慮すると、在韓米軍再編の様相、特にソウル以北に駐留する米地上戦力の引き揚げは、危機が高まった場合の米軍の介入を従来よりも難しくし、その影響は米軍の出撃・兵站支援拠点である日本にも及ぶ可能性がある。そのとき我々は、核恫喝に晒されるリスクを冒しても米韓を支援する覚悟があるかどうかを問われることになる。そして今や北朝鮮の核恫喝は、火星12や火星15といった中・長距離弾道ミサイルの開発によってグアムや米本土まで及ぶ可能性があることにも留意が必要であろう。

シナリオ(4)陸軍・空軍を含む在韓米軍の大規模縮小

 第四は、在韓米軍の急激な縮小に反対するマティス国防長官やハリス駐韓大使をはじめとする国務・国防当局の意見が無視あるいは解任されるなどして、米国外に前方展開する米軍を撤収させたいというトランプ大統領の意向が強く反映されるシナリオである。

 具体的には、朝鮮戦争の終結や戦時作戦統制権の返還、あるいは米韓防衛費分担交渉が頓挫したことをきっかけに在韓米軍の役割を大幅に縮小し、ソウル以北の地上戦力だけでなく、第7空軍隷下の2個戦闘航空団も段階的に撤収する。この場合のオプションとしては、縮小プロセスの過渡期として平沢などに5〜8000名程度の軽量遠征部隊を残留させることも考えられるが、実働部隊の大半は域外での訓練やローテーション展開に駆り出される。実働部隊の駐留期間短縮は、韓国の負担軽減に繋がるという意味において韓国世論にとって好ましい側面がある一方、トリップワイヤ機能が著しく損なわれるため、朝鮮半島有事を想定した抑止・事態対処能力としては殆ど意味をなさなくなるだろう。

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