他方で韓国は、在韓米軍プレゼンスの大規模削減の後に、自身の防衛力整備の方向性とその意味付けに苦悩することになるだろう。これまでの通り、朝鮮半島有事への抑止・事態対処能力を備えるつもりならば、在韓米軍が抜けた穴を韓国軍が今以上の防衛力強化を行って埋めるという方針になる。これは盧武鉉以来の進歩派に存在する自主防衛強化の欲求と合わせれば、渡りに船と言えるかもしれない。しかし、在韓米軍の縮小・撤退の理由を北朝鮮の脅威が低減したことと結びつけるのであれば、そもそも何のために防衛力を強化する必要があるのか、国内的な説明が難しくなることが予想される。
1つの可能性としては、韓国軍や国防部内、保守派を中心に内在している中国脅威論を前提とした防衛力整備が考えられようが、THAAD問題でも明らかなように、中国脅威論を表立って防衛力整備のコンセンサスとすることは国内政治上困難であろう。そのとき、もう1つの可能性として浮上するのは、(具体性はさておき)日本を政治的なスケープゴートとして防衛力整備の理由づけとするというパターンであり、その場合には日韓の防衛協力を進めていくことがこれまで以上に困難になる恐れがある。
シナリオ(5)米韓同盟の解消、中国の影響圏下の統一朝鮮が出現
第五のシナリオは、朝鮮半島における平和協定の締結を受け、南北の対立関係が根本的に解消された結果、韓国軍がこれまで北朝鮮を前提として進めてきた防衛力整備の意義が薄れ、脅威の再設定に迫られる。また政治体制は、南北統一までの過渡期として連邦制に近い体制となり、在韓米軍・米韓同盟は事実上消滅し、極東における米国の防衛線は対馬まで後退するというものだ。
米国の影響力が排除された朝鮮半島では、南北朝鮮に対する中国の影響力拡大は避けられない。ただし論理的には、在韓米軍が完全撤退して米韓同盟が解消されてしまえば、北朝鮮が核保有を続ける根拠も大きく損なわれる。またこの状況で敢えて日本の安全保障にとってのメリットを見出すとすれば、米韓同盟が存在しない以上、そもそも日本から朝鮮半島有事を想定した米韓支援を行う理由を失うから、北朝鮮も日本に対して核恫喝を行う動機・必要性が無くなるとも言えなくはない。
だがそれ以上に、中国の影響が色濃く反映される朝鮮半島秩序の誕生は、日本の安全保障環境を劇的に悪化させるということの深刻さを理解する必要がある。またこうした状況においてもなお、北朝鮮に核能力が温存されていれば、日本は隣国に「中国の影響下に置かれた、核付きの統一朝鮮」が誕生するという最悪のシナリオに進展することを覚悟する必要が出てくるだろう。
第三回となる次稿では、以上のシナリオ分析を踏まえて、今後の日本と日米同盟に求められる役割を検討してみたい。
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