2022年8月10日(水)

Wedge REPORT

2018年7月23日

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米山秀隆 (よねやま・ひでたか)

富士通総研経済研究所 主席研究員

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。89年筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所を経て現職。専門は、住宅・土地政策、日本経済で、特に空き家問題に詳しい。主な著書に『限界マンション』『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社)などがある。

 2018年3月31日時点で、空家法に基づく措置の実績は、助言・指導が10,676件、勧告が552件、命令が70件、代執行23件、略式代執行75件となっている。助言・指導の件数に比べ、勧告の件数が少ないことは、助言・指導の段階で従う場合が多かったことを示している。その意味で、空家法と税制改正の効果はあったといえる。

 ただ、特定空家の所有者へのプレッシャーと税負担を高めたとしても、支払い能力がなく解体費も出せない場合には、そのまま放置される物件も出てくると考えられる。この場合、最終的には代執行に至るが、費用は請求しても払ってもらえず、費用回収のため敷地の売却を迫られる。しかし、売れても抵当権が付いていた場合、自治体に回ってくる分があるかはわからない。代執行に積極的に踏み切る弊害としては、最終的にこうした措置が取られることがわかっているとしたら、自ら動かず、自治体に任せる所有者が出てくることである。

 空家法と税制改正で、特定空家の自主的解体は従来より進んだ。現に自治体が直面する問題は、それでも対応してくれない場合、すべて代執行を覚悟するのか、あるいはそれ以前の段階で、解体費補助などで自主的対応を促しておいた方が得策なのかという問題である。

様々な解体支援策

 実際、これまで自治体は、各種のインセンティブを通じて解体を促してきた。件数ベースで最も多く解体費を補助している自治体は広島県呉市で、2016年度までに501件、総額1億4,243万円の補助を実施した(1件当たり上限は30万円)。呉市は斜面が多く解体が進みにくいため、補助の仕組みを設けた。これにより、これまで処分に悩んできた所有者が、空き家の解体に踏み切るきっかけとなった。仮に501件が代執行となれば、自治体の対応能力を超える。

 一方、群馬県高崎市では上限100万円とより高額で、2016年度までに427件、3億8,753万円の補助を実施した。呉市の補助金は国が半分出すスキームを利用しているが、高崎市では全額市が出しており、支給の基準も10年程度空き家であればよく、緩い。

 高額の補助を出すことについては、モラルハザードの問題も大きいが、それによって自主的解体が進み、将来問題空き家となり得る物件が現時点で大きく減れば、そのほうが望ましいとの考え方に立つことも可能である。空家法に基づく対処は時間がかかり、空き家対策で目に見える効果が上げるには補助金を支給するのが早いとの市長の判断に基づく仕組みである。財政が豊かであればそのような選択も取り得る。

 このほか、土地建物を市に寄付する条件で、空き家の公費による解体を進めた自治体もある(長崎市など)。また、空き家の建っていた土地を一定期間公共利用することを条件に解体費を補助し、公共利用の間の固定資産税を免除する仕組みを設けた自治体もある(福井県越前町など)。

 こうした様々な形の公費投入の仕組みは、自治体がそれぞれの事情によって講じたものである。ただし、公費投入にはモラルハザードの問題がある。最初から支援を受けられるとわかっていたら、誰も自己負担で解体しなくなる。自治体としては、あくまでも自主的解体を原則とし、公費投入に踏み切る場合は、地域にとって有効な手法を選ぶ形で支援しようとしている。

米山さんの新著『捨てられる土地と家』(ウェッジ)















 

  
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