チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年8月24日

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日本はなぜプラザ合意をしたのか?

 次に、上場企業を複数所有するスーパーリッチのBさんと彼が所有する会所(企業の迎賓館みたい施設で商談、会食ができる施設)での商談の合間の休憩の時に話をした。彼は、歴史の研究が趣味で大の日本贔屓。ビジネスマンだけれども世界の歴史、政治経済をよく研究していて、中国の将来の方向性についても問題意識を持っている。初めて会った時は、いきなり、あの時の近衛内閣はなぜ、北進(対ソ連)を捨てて南進(対米国)に走ったのかという質問をされた。 

 北進していれば世界の歴史も日本の運命も違った展開になったであろうとのこと。私が、コミンテルンの色々な工作もあったのではないですかと返答すると、我が意を得たり、という感じで、盧溝橋事件を含めコミンテルンが日中関係にどのような影響を及ぼしたかという話を始める始末。

 私は、ここまで突っ込んで歴史の背景を語る中国人初めて出会って驚いた。コミンテルンが日中関係にどのような影響を及ぼしたなんて、現在の中国共産党は表向きには話さないことで、彼によるとそこまで知っているのも中国共産党の中でもほんの一部の人だけだとのことであった(ここで、本題と関係のない歴史の話を紹介するは、中国でも一流のビジネスマンは真剣に歴史を勉強し、貿易問題をも含めた先行き不透明な現代社会の将来を考えているということを、日本の読者にも知ってもらいたいからである)。

 余談が長くなってしまったが、そのAさんが、今回言い出した質問は、なぜ、日本はプラザ合意をしたのか、その辺の背景、経緯を教えてもらいたいとのこと。現在の米中貿易戦争の米国の交渉相手が、日本のプラザ合意の時の米国側の担当者とのことで、日本の経験から何かヒントを得たいようであった。

 私は、自分の認識をなるべく簡潔に分かりやすい言葉で説明した。要するに、戦後米国は、日本を発展させて共産主義国家に対する楔(くさび)にしようと日本を支援してきたが、その結果、日本が経済的に膨張しすぎたので、この辺で頭を押さえておいて、自分にももっと分け前をよこせというだけのこと。日本の立場から言えば、同意するもしないも受け入れるしかなかったはず。今回の米中貿易戦争の背景もある意味それと同じではないか。

 A氏によると、確かに中国はこれまで、プラザ合意後の円高の中での日本産業の海外シフトなどをうまく活用し、サプライチェインの一部を中国移転させることに成功し、米国に輸出し大いに稼がせてもらった。また、9.11以降中東に目を向ける間に、中国はじっくり国力増強に力を入れてきた部分はあると。

 そして、私からは以下の通り指摘した。

  1. これまで米国は中国に対して政治的な背景もあり多めに見てきたら、中国が儲けすぎてしまって、このままで米国の覇権を脅かすほどになったということ。ここで頭を押さえておかないと大変なことになるのではないかという懸念だが、別にこれは今に始まった話ではない。
  2. 中国は、共産党一党独裁の国で、選挙により政権の正当性が保障された民主国家ではないから、そのうち民衆の不満がたまって破綻するのではないかと期待していたら、いつになって破綻しない、破綻しないどころか、中国人はますます豊かになっている。政治家は米国や日本のようにポピュリズムの悪弊を心配することなく、政策を執行できる。国の権益に守らたれた巨大企業が、米国の企業と不動産をどんどん買収してゆく。一方、中国の国内市場は国にしっかり守られているからおいしいところはなかなか食べさせてくれないのに、入場料として知財の提供を求められる。中国と喧嘩しても後出しじゃん拳みたいで負けるばかり。アンフェアだ、中国は米国の知財を掠め取っているということになっている。
  3. そうした懸念は今に始まった話ではなく、トランプはそこをディールのチャンスと見たわけでは。ただ、中国は日本と違って、米軍が自国に駐留していることもないし、核爆弾を保有している常任理事国として、より独立独歩だから、日本よりは交渉の余地があるのでは?

 Bさん、ニヤニヤしながら聞いていたが、私の指摘に対して概ね反論しなかった。ただ、中国はもっと謙虚な姿勢で行ったほうがいいし、野望があっても、それはあまり表に出さないほうがいいということを言っていた。先行きについて色々尋ねてみたのであるが、それ以上の歯切れのいい、話は出なかった。どうも彼らとしても、どこを落とし所にするのか、探しあぐねている感じがした。

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