プーチンにすがるエルドアン
トランプ氏との対立で追い込まれたエルドアン氏にとって、頼りはロシアのプーチン大統領だ。米国が鉄鋼などへの追加関税を発表した10日には、プーチン氏と急きょ電話会談、事実上、同氏にすがりついた。
エルドアン氏は同日付のニューヨーク・タイムズへの寄稿でも、米国が同盟国であるトルコに失礼な行動をやめなければ「新たな仲間や同盟国を探し始めなければならない」などと警告した。国際関係論から言えば、米ロを天秤にかける典型的な動きである。
エルドアン氏と米国との関係はクーデター未遂事件が起きる前から、シリアのクルド人支援問題などでギクシャクしてきた。だが、その逆にプーチン氏とは友好関係を築いた。ロシアのシリア軍事介入で、その軍事力を目の当たりにし、2017年、ロシアの最新防空システムS400の購入を契約した。プーチン氏にとっては米国とその同盟国に楔を打ち込む好機でもある。
この兵器購入契約に米国が危機感を募らせるのは当然だ。S400を導入すれば、NATOの一員であるトルコ領内で、ロシアの技術者が公然と活動することになる。米議会はこのほど、ブランソン牧師を釈放し、S400の購入契約を停止しなければ、トルコが米国から購入したF35戦闘機100機の引き渡しを認めないとする法案を可決し、エルドアン氏に圧力を掛けた。
イランのザリフ外相はトルコへの米制裁を「恥ずべき行為」と批判したが、エルドアン氏にとっては当面、ロシアとイランこそ同盟国だ。この3カ国はシリア内戦でも協力関係にあり、内戦終結後のシリアの政治体制についての協議を続けてきたし、3カ国とも米国から制裁を受けているという共通項がある。
トランプ氏が優先するのは目先の利益だ。先のNATO首脳会議や先進7カ国首脳会議(G7)で見せた“同盟国を同盟国と思わない”姿勢、そして日本を含む同盟国との貿易戦争も辞さない態度がそのことを物語っている。だから同盟国であるトルコに対する強硬方針もさほど違和感がないに違いない。だが、「トルコがロシアに取り込まれた時、その地政学的損失は米国にとってはかり知れない」(ベイルート筋)。後になってほぞを噛むのは米国ではないのか。
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