WEDGE REPORT

2018年8月25日

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竹田有里 (たけだ・ゆり)

環境ジャーナリスト

環境ジャーナリスト。TOKYO MXでニュースキャスター、社会部・政治部記者を歴任。災害報道や環境番組を制作した後、フジテレビの環境ドキュメンタリー番組「環境クライシス」の記者として企画制作・出演。その傍ら、上智大学地球環境学研究科(修士)に在籍し、今秋修了予定。その他、雑誌・ウェブページでも執筆。文化放送「斉藤一美ニュースワイドSAKIDORI!」でサブキャスター・記者としても活躍。

 ウルハンガイ県ブルド村の遊牧民オトゴンソガルさん一家は、今年のゾドで約300頭の家畜のうち半数も失ってしまったという。金額にして1100万トゥグルク、日本円で50万円。50万円があれば、子ども2人を大学まで通わせることができる。さらにゾドの影響は家畜の死だけではない。今年の冬は、ここ数年で最も厳しく、冬の定住場所で雪が深かったため、さらに違う場所へ移住する「オトル」を行い、家畜を連れゲルを運んだ。その最中、オトゴンソガルさんの家族が、大雪で埋もれた馬の救出中に凍死したという。それでもオトゴンソガルさんは遊牧民としての誇りを持ちゾドに立ち向かっている。「最後の1頭になっても遊牧民はやめない」。

春は出産の時期。生まれたばかりの家畜を幸せそうに世話をするオトゴンソガルさん一家

気候変動で「ゾド」が増加傾向に

 ゾドの研究者であるモンゴル環境省気候変動対策課のバトジャルガル博士に話を聞いた。

 「過去最も厳しかった2009年から2010年の冬に発生したゾドでは被害が遊牧民の8割に当たる77万人に及び、970 万頭の家畜が死んだと伝えられた。さらに今年は1月〜2月だけで70万9000頭の家畜が死んだ。この数はすでに2011年以降で最多である」

 さらに博士は「気候変動の影響でゾドの発生数が増加傾向にある」と指摘。

 下のグラフ・年間平均気温偏差は、モンゴルの年間平均気温偏差を示したものである(基準値は1961〜1990年の30年平均値)

 1940年から2015年の間に気温が2.24℃も上昇しており、最も暑かった年のベスト10は、すべて2000年以降である。

データ提供:Ministry of environemnt and tourism 写真を拡大

 次のグラフ・年間降水量偏差は、モンゴルの年間降水量偏差を示したものである。(1961年〜1990年の30年平均値)
 
 1940年から2015年にかけて、降水量が減少傾向にあることがわかる。

データ提供:Ministry of environemnt and tourism 写真を拡大

 博士によると、一昔前は12年に1度くらいの頻度でゾドが発生していたのに対し、近年は3.8年に1度の頻度で起きているという。このまま温暖化が進めば、遊牧民が消え、モンゴル国の3割を占める国民の生活基盤が失われる恐れがあるのだ。

ゾドによる社会問題

 オトゴンソガルさんのような遊牧民ばかりではなくゾドによって家畜を失った人々の多くが遊牧生活を止めざるをえず、ウランバートルに押し寄せてきている。その数は年々増え続け、ウランバートル人口の6割を占める約90万人に達した。上述の通り、首都への流入に拍車をかけている要因の一つだ。遊牧民たちは、遊牧生活で使っていたゲル(移動式住居)を設置しまくり、今では巨大な「ゲル地区」が形成された。しかし、居住を確保したらそれで安心というわけにはいかない。遊牧しかしたことがない彼らは、なかなか職が見つからず、3K(きつい、危険、汚い)の職場環境の仕事しか得られない。彼らの生活は困窮し、アルコール中毒や犯罪に手を染める人たちもいる。こうした元遊牧民が「環境難民」として肩を寄せ合っている。

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