――呉オーナーは、観光ビジネスの経験はあったのでしょうか。
以前、知人の紹介で長野のスキー場にあるホテルを買収したことがあります。努力して買収前よりも客数を増やし、うまくいきかけていましたが、東日本大震災の影響でつまずいて結果的に売却することになりました。また、北海道赤井川村のゴルフ場を買収したこともあります。ただゴルフ場ビジネスは規制にすごく縛られていて、これも手放しました。夕張ではこれまでの経験も生かして、男としてリベンジを果たしたいという気持ちも持っています。
――結果的に夕張市は元大の入札を評価しました。その後、市との関係はいかがですか。
市役所とのコミュニケーションは良好ですよ。つい先日、8月上旬にも鈴木直道市長と会って観光政策について話し合いました。私が市長に要望しているのは、市内の空き家や遊休不動産を我々がもっと有効活用できるように行政も協力してほしい、ということです。こんなふうに率直に意見を言い合って、市と我々が互いの考えを尊重しながらやっていきたいというのが私の考えです。
鈴木市長には感謝しています。施設売却の際、選考組織の判断もありましたが、最終的に市長がダメと言えば元大にはならなかったわけですから。市とは、従業員の100%継続雇用、集客のための積極投資を約束し、私は約束通りに動いています。例えばホテル・スキー場の実務は元大夕張リゾートの現地子会社「夕張リゾート」社の役目ですが、この社長職を、旧体制でホテル総支配人だった地元出身の米澤僚さんにやってもらっています。
――実際に施設を1年以上運営してみて、想定外だったこともあるのでは。
やはりそれはあります。施設のあちこちが傷んでいて、故障で使えないものもたくさんそのまま残っていて、最初の補修関連だけで数千万円単位のお金がかかりました。でも、もう自分の施設ですから頑張ってやるしかない。思ってたのと違うから返品、なんてできませんから。
――旧体制で各施設を管理・運営してきたのは加森観光(本社札幌市)です。加森が施設の不具合を放置しすぎたというでしょうか。
いえ、誤解してほしくないのですが加森観光は悪くありません。加森は、夕張市の所有施設を指定管理者として任されていただけで、リスクを取って新たな投資をする理由はありませんから。施設を所有する我々とはもともとの立場が違います。
――昨春、元大が数年内に100億円規模の投資をするとの報道もありました。
もちろん投資はします。でも、初めから申し上げていることですが私1人でそこまでの巨額を出せるわけではありません。自ら投資しながら、世界中に夕張をPRしていろいろな資金を集めてくる。その窓口になるのが私の役目です。これはお金の話に限りません。そもそも私だけで夕張を良くするなんてできるわけがない。地元の人、行政、また地元以外で夕張のことを気にかけてくれる人たち、たくさんの人の力を合わせないと成功しません。例えば道外で夕張について口コミで発信するのも大事で、必ずしもお金がかかることばかりじゃないですよ。
――元大は施設を買い取っただけでなく、近隣の土地や空き物件も買って、そこに新しい店をつくろうとしているそうですね。
そうです。先ほど夕張に最初に来たときのことをお話しましたが、初めて街を歩いてみると、店が少なくてとても寂しかったんです。夕張にはスキー場だけでなく、夏のメロン、石炭博物館をはじめとする歴史遺産、日本有数の規模を誇るダムなどいい観光コンテンツはあるのに、飲食店や土産店が少ないから観光地としての魅力が足りない。特に夜遅くまで食事やお酒を楽しめる店がなくて、宿泊客がホテルから出ても真っ暗で行くところがないんです。私は、夜も明るい、観光客が楽しく歩けるエリアをつくりたい。
そこで、まずは街に店を増やすことから始めると決めました。秋までに飲食店3店を新設します。1つはホテルマウントレースイ前にある屋台村に開くカレー専門店。それから、その屋台村の並びの土地を買って、焼肉レストランをつくります。もう1つは手軽な食堂ですが、これは札幌方面から車で夕張に来たときの玄関口にあたる地域に開きます。この食堂は、閉店したコンビニエンスストアチェーンの空き不動産を買い取って改装して、そのコンビニの元オーナーご夫婦に責任者としてまた頑張ってもらいます。繰り返しですが、夕張を良くするには絶対にたくさんの人の力が必要です。特に若い人。我々が頑張って働き口を増やしますから、若い人に夕張に来てもらって、活躍してほしいです。