ベストセラーで読むアメリカ

2018年8月29日

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 そして、次に引用する最後の一節にはジーンときた。インディアナポリスの生存者のひとりMorganが、関係者のこどもたちも一緒に「ゴッド・ブレス・アメリカ」を歌おうと呼びかける。生存者のこどもや孫が式場の前部に集まるなか、周りの人々に促されイイダ・アツコも自分のこども2人の手を引いて、戸惑いながらも合唱の輪に加わった。

 Atsuko reached the front of the room with her boys. At the microphone, Morgan sang the first notes. Five hundred people watched with smiles and tears as Hashimoto’s family and the Indianapolis families joined together and sang, as one.

 「アツコは自分のこども2人をつれて、部屋の前の方に進み出た。モーガンはマイクの前で歌い始めていた。500人の観衆が微笑と涙を浮かべながら、橋本の家族とインディアナポリスの家族が一緒になり、ひとつにまとまって歌っている様子を見つめていた」

 わたしが日本人なので、本稿ではあえて橋本にまつわる部分を中心に紹介した。本書そのものは実際には、インディアナポリス号をめぐる史実を丁寧に追うバランスのとれたノンフィクションである。決して、橋本を主人公にすえたものではないことを念のためお断りしておく。

「原爆投下はやむを得なかった」
米ベストセラーでよく見られる歴史観

 最後に、広島・長崎に投下した原爆に対する、アメリカ人の考え方について触れたい。インディアナポリスが原爆を運搬する役目を果たした関係で、本書ではアメリカが原爆投下に踏み切った戦略的な背景なども記述している。ひとことで言えば、人的な被害の一段の拡大が懸念された戦争を終わらせるためには、原爆投下はやむを得なかった、という考え方が底流にある書き方となっている。

 原爆をつかわずに、日本の本土への上陸作戦を決行していたら、日米ともにより多くの人命が失われたはずだ。原爆はむしろ、そうした多くの命を救うのに役立ったという考え方だ。本コラムでも、過去に幾度かとりあげたように(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8045 など)、アメリカのベストセラーではよくみられる歴史観だ。つまりは、これがアメリカ人の一般的な感じ方ということだろう。原爆による被害の悲惨さを訴えるだけでは、なかなかアメリカ人の心には響きそうにない。

  
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