原子力事業を民間企業に続けさせるという政策的選択を継続する限りは、今の賠償スキームは持続可能ではない。今後数年のうちに、再度このスキームは見直されるべきである。
見直しに当たって、重要視しなければならないのは次の2点である。第一に、被害者を置き去りにしないことだ。そのためには、国と東京電力が連帯して損害賠償を行う仕組みに変更する必要がある。原賠法策定時以来の曖昧な責任区分について決着させ、官民のどちらがどの程度負担すべきかは、独立した因果関係調査委員会を設置して検討する。支払いは交付国債を活用して、国が一括して支払い、後に調査結果に応じて東京電力に債務超過に陥らないような仕組みで求償すればよい。
第二に、法的に電力供給義務が課されている電気事業者の資金調達を確保することである。金額も期間もわからない長期間の賠償責任を負った東京電力が新たに資金調達することは現実的に困難である。さらに、今回の賠償スキームでは、他の電力会社から負担金を徴収することになっている。しかし、原賠法では、こうしたことは予定されておらず、ご都合主義の奉加帳方式を安易に用いれば、他の電力会社への民間投資や融資は停滞するだろう。負担金を将来の賠償保険にするのであれば、原賠法を改正すべきだ。
冷静に検討されるべきは、東京電力を存続させて、数十年間にわたって賠償事務を行わせるべきなのかどうかである。政治的には、東京電力をわざと法的整理に持ち込まずに存続させ、「罪をあがなわせる」という姿勢を取って、「第一義的責任」を全うさせるという仕組みは当然のように見えるし、国民感情にも訴えるだろう。しかし、このようないわば「無期懲役」は、民間企業としての再建を遅らせ、社員のモチベーションを下げ、人材確保を難しくすることから、本業である電力供給サービスの低下を招きかねない。賠償額に上限を設けることによってその弊害を抑える方法もあるが、遠くない時点で、賠償を果たすための組織と、新たに電力供給を担っていく組織とを分離した方がより合理的ではないか。
エネルギー安保踏まえた見直しを
今回の震災と原発事故は、エネルギー安定供給の重要性を改めて国民に認識させた。ここ最近は温暖化対策に振り回されていたエネルギー政策も、本来の姿に戻ってエネルギーセキュリティを軸とした見直しが必要だ。電力供給はもちろんだが、それ以外にも石油製品の流通やガスのパイプライン整備なども重要な検討課題になる。
そのいずれの課題においても問題になるのが、安定供給体制整備に必要なコストの大きさと負担のあり方である。例えば石油であれば備蓄が必要なように、保険料的性格のコストを負担することがどうしても必要となる。緊急時にその恩恵を得られるのはエネルギー消費者であり、本来なら料金や税の形で最終消費者が被るのが筋である。しかし、実際には供給事業者が置かれた環境はさまざまである。石油流通であればガソリンスタンドは激しい競争をしており、セキュリティコストを転嫁することは難しい。電力企業においては、料金値上げは激しい政治的抵抗に直面する。しかし、エネルギーセキュリティを確保するためには、安定供給体制にかかるコストを確実に消費者に転嫁するような料金制度を整備するか、エネルギーに課税して国自身が安定供給事業を行う(石油の国家備蓄が例)しかない。